血液疾患:貧血、白血病

血球の分化と系統

骨髄の骨髄リンパ系幹細胞(Stem cells)から、さまざまなインターロイキン、成長因子の作用を受けてそれぞれの細胞に分化する。

・リンパ球系 −−Tリンパ球:細胞性免疫、Bリンパ球:抗体を介する液性免疫

小リンパ球(左)と大リンパ球(右)。

・赤血球系 −−酸素・炭酸ガスの運搬を担う、ヘモグロビンを含み、核を持たない

網赤血球(ニューメチレンブルー超生体染色)。

・血小板系 −−血液凝固に必要。

単球(モノサイト, monocyte)(左)と血小板(右矢印)。

・好中球・マクロファージ系 −−貪食能を持つ、細菌に対する免疫において重要。

杆状核好中球(左)と分葉核好中球(3分葉核)。

・好酸・好塩基球系 −−アレルギーに関与

好酸球(左)と好塩基球(右)。

貧血総論

●赤血球は120日の寿命→毎日120分の1は新しく骨髄から補給される。
貧血の成因としては
1)赤血球産生減少
2)赤血球消失増大
3)上記の組み合わせ、または原因不明
●RBC (Red blood cell), Hb (hemoglobin)が低値となる。
●蒼白、心悸亢進、息切れ、頻脈、易疲労性、倦怠感、など。
正常赤血球(末梢血)。



鉄欠乏性貧血ほか

1)鉄欠乏性貧血 Iron deficiency anemia
慢性失血(生理、痔)、鉄の消耗増加(妊娠、出産):Feは体内に吸収されるものとして一日1.0 mgは必要。生理のある場合更に0.5 mg/日必要。体内鉄総量は4000mg。鉄剤を3から6カ月服用する。

鉄欠乏性貧血の末梢血低色素性赤血球。輪状に見える。大小不同。赤血球は大小不同で全体に小さく、染色性も低下(ヘモグロビンが少ないため)。

2)急性失血性貧血 Acute hemorrhagic anemia
消化管出血(消化管悪性腫瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、など)、外傷。

3)鉄芽球性貧血:ヘム合成障害が起こり骨髄赤芽球に鉄顆粒を含むsideroblastが多数認められる。


鉄芽球性貧血。末梢血(上段)で正色素性と低色素性の赤血球が混在。骨髄(下段)では鉄顆粒が多くまた核周囲に配列。

巨赤芽球性貧血

Megaloblastic anemia:
ビタミンB12あるいは葉酸の欠乏→核酸合成障害→巨赤芽球性造血→貧血。
1.悪性貧血:萎縮性胃炎→内因子欠乏→Vit B12欠乏
2.随伴性悪性貧血:胃摘出、広節裂頭条虫、胃腸疾患等

好塩基性巨赤芽球(左)、多染性巨赤芽球(右)。

溶血性貧血

Hemolytic anemia:間接ビリルビン(IB)が上昇
1.遺伝性球形赤血球症 Hereditary spherocytosis:遺伝的に赤血球が球状で脾臓で破壊されやすい。
2.遺伝性非球形性溶血性貧血 Hereditary nonspherocytic hemolytic anemia :遺伝的に赤血球のさまざまな酵素が欠乏しており脾臓で破壊されやすい。
3.自己免疫性溶血性貧血 Autoimmune hemolytic anemia:赤血球に対する自己抗体により溶血が起こる。Coombs試験陽性。
4.その他:発作性夜間血色素尿症 Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria、発作性寒冷血色素尿症 Paroxysmal cold hemoglobinuria 小球状赤血球(矢印)が認められる。遺伝性球状赤血球症。


再生不良性貧血

Aplastic anemia:一般に赤血球、白血球、血小板3者が減少(汎血球減少症 pancytopenia)。
1.原発性
自己反応性T細胞による血液幹細胞の破壊によるものが多いことが分かってきた。
2.続発性
  中毒性:抗がん剤、抗甲状腺薬、など
  放射線障害:
  その他:感染症
●骨髄穿刺→有核細胞数が通常減少、巨核球数が減少。
●治療:輸血;androgenなどタンパク同化ホルモン投与、シクロスポリンAの投与、抗T細胞グロブリンの投与(リンフォグロブリン);骨髄移植

正常の骨髄。


再生不良性貧血の骨髄。

骨髄増殖性疾患 Myeloproliferative Disorders

骨髄増殖性疾患 Myeloproliferative Disorders
(血液系の悪性疾患 Hematologic Malignancy)

骨髄性疾患 Myeloid Disorders

I. 急性骨髄性白血病Acute Myeloid Leukemia

II. 慢性骨髄性疾患 Chronic Myeloid Disorders

1.骨髄異形成症候群 Myelodysplastic Syndromes (MDS)

2.慢性骨髄増殖性疾患 Chronic Myeloproliferative Disordefrs (CMPDs):前白血病状態にあるといえる。
1)慢性骨髄性白血病 Chronic Myelogenous Leukemia −−第9染色体と第22染色体の転座と第22染色体の短縮(Philadelphia Chromosome) が特徴的
2)真性多血症 Polycythemia Vera
3)原因不明骨髄化生 Agnogenic Myeloid Metaplasia (AMM, 骨髄線維症 Idiopathic Myelofibrosisとも呼ばれる)
・血小板増殖症後骨髄化生 Post-Thrombocythemic Myeloid Metaplasia
・多血症後骨髄化生 Post-Polycythemic Myeloid Metaplasia
・原因不明骨髄化成 Agnogenic Myeloid Metaplasia
4)原発性血小板増殖症 Essential Thrombocythemia (ET)

3.非典型的慢性骨髄性疾患

リンパ性疾患 Lymphoid Disorders

I. 急性リンパ性白血病 Acute Lymphocytic Leukemia

II. 慢性リンパ増殖性疾患 Chronic Lymphoproliferative Disorders

1.悪性リンパ腫 Lymphoma
・ホジキン病 Hodgkin's Disease
・非ホジキンリンパ腫 Non−Hodgkin's Lymphoma

2.ミエローマ(骨髄腫) Myeloma

3.慢性リンパ性白血病 Chronic Lymphoid Leukemias
・T細胞性慢性リンパ性白血病 T Cell Chronic Lymphoid Leukemias
・B細胞性慢性リンパ性白血病 B Cell Chronic Lymphoid Leukemias

白血病

概念
●白血球生成組織が不可逆的系統的に増殖する疾患。
●末梢血、骨髄穿刺による骨髄像で白血病細胞を認める。
●貧血、出血傾向、感染症、リンパ節腫脹、肝脾腫、骨関節の疼痛。
●血液像、骨髄像(白血病細胞の種類)から分類される。

分類
●急性白血病:正常血球が減少してそれらの機能の脱落症状=易感染性、出血傾向、貧血が出現する。骨髄の細胞成分が多く、芽球が有核細胞の30%以上を占める。
●慢性白血病:正常細胞が十分あって機能脱落症状はない。
●骨髄異形成症候群(myelodysplatic syndrome):汎血球減少症があり芽球の増加が軽度で異常増殖が強くなく化学療法は必要ない状態。

より詳細な分類

急性白血病
分類
骨髄や末梢血中に芽球あるいは白血病細胞と呼ばれる未分化な血球が多数みられる。急性白血病の病型の確定は、これら芽球の形態的特徴で決められる。

1)急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML):骨髄芽球性白血病、前骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄単球性白血病、赤白血病、巨核球性白血病。ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase, MPO)染色陽性でアウエル小体がみられる。

急性骨髄芽球性白血病(M1)の骨髄:MPO陽性(左;青く染色されている)、Auer小体が認められる(右;矢印)。

2)急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia, ALL):Tリンパ球性白血病、Bリンパ球性白血病、null cellリンパ球性白血病。MPO陰性でAuer小体陰性。


急性リンパ性白血病(L1)の骨髄:いずれもALLのL1。リンパ芽球は小型で細胞質は狭く、核の形は規則性があり、核小体ははっきりしない。


FAB分類
French-American-Britishグループの提案した急性白血病の分類。
AMLをM0からM7の8病型に、ALLをL0からL3に分類する。小児のALLの多くはL1、成人のALLの多くはL2でる。

M0:最も未分化な骨髄芽球性白血病。CD13またはCD33が陽性。MPO(ミエロペルオキシダーゼ)陽性率3%以下。


M1:古典的な骨髄芽球性白血病。AMLの約25%。MPO陽性率3%以上。


M2:分化型骨髄性白血病。骨髄芽球が顆粒球系への明らかな分化傾向を示す。 MPO強陽性。


M3:急性前骨髄性白血病(acute promyelocitic leukemia, APL)に相当する。白血病細胞が前骨髄球のレベルにまで分化している。MPO強陽性でアズール顆粒が無数に細胞質内に認められる。アズール顆粒はprocoagulant活性を持ちDICを起こしやすいのが特徴である。活性型ビタミンAであるall-trans retinoic acid (ATRA)の内服で高率に完全寛解に到る。ATRAにより前骨髄球が成熟好中球へ分化する。*分化誘導療法


M4:骨髄単球性白血病。骨髄系と単球系の白血病細胞が混在し、芽球は骨髄の30%以上を占めているが、単球系細胞が骨髄の20%以上を占めるか、末梢血で単球系細胞が5、000/μl以上認められる。


M5:単球系白血病。単球系が80%以上を占める。M5aとM5bに分けられ、M5aは未分化で単芽球が主体を占め、M5bは前単球や単球までの分化傾向がある。頻度は低く、治療成績は不良の例が多い。

M5a

M5b


M6:古典的な赤白血病。骨髄の50%以上が異型性のある異常赤芽球に占められ、芽球は赤芽球以外の30%以上を占める。(赤芽球50%以上の骨髄で、芽球が赤芽球以外の残りの細胞の30%以下ならば、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)の芽球過剰型不応性貧血に分類する)。頻度は低く、治療成績は不良の例が多い。


M7:巨核球性白血病。芽球の30%以上が巨核球性である。血小板ペルオキシダーゼを電顕的に証明できる。また、CD41が陽性である。


L1:小型均一のリンパ芽球。小リンパ球大からその2倍程度。


L2:大型大小不同のリンバ芽球。核小体が明瞭で、核形の不整も認められる。


L3:大型均一なリンパ芽球で細胞質は広く、強塩基性、空胞が顕著である。

白血病の症状

1)貧血症状。
2)感染症=グラム陰性桿菌、真菌、Pneumocystis carinii, Cytomegalovirusなどによる肺炎や敗血症。
3)出血=皮膚点状出血、脳出血、鼻出血、歯肉出血、肺出血、消化管出血、血尿など。
4)無痛性のリンパ節腫脹。
5)骨痛。
6)脳脊髄膜症状などの神経症状。

白血病の治療

J一般的な考え方:
寛解導入療法:白血病細胞を1千万個から1億個まで減少させる。

寛解維持療法:寛解導入直後に地固め療法。その後3カ月に一回の強化療法。
寛解率は60-80%だが、大部分は1-2年で再発して死亡。

AML89 study:
寛解導入:Ara-C(シタラビン)80 mg/sqm/day24時間持続点滴+DNR(ダウノルビシン)+6MP(6メルカプトプリン)+PSL(プレドニゾロン)の併用療法。
強力地固め療法:3コース。
強化維持療法:1年間6コース。
前骨髄球性白血病に対してはall-trans retinoic acid(レチノイン酸)単独またはマイルドな化学療法を併用し約90%の寛解率が得られた。分化誘導療法として初めて成功した方法。
AMLに対してはイダルビジン + シタラビンで5年生存率約40%、+骨髄移植で5年生存率約50%と最近成績が向上している。
ALLに対してはビンクリスチン + プレドニゾロン、さらにメソトレキセートなどで日本の5年生存率は24%位である。
G-CSF(ノイトロジン)は白血球が1000以下の場合投与される。

補助療法
1.成分輸血(血小板、顆粒球、赤血球を分けて必要に応じて投与)。
2.G-CSF, M-CSF, GM-CSFの投与。
3.無菌環境。
4.急性腎不全の予防。

骨髄移植
●AML, ALLの寛解後療法として化学療法以外の選択肢として骨髄移植がある。
1.同胞よりのallo-bone marrow transplantation (BMT)
2.非血縁ドナーからのallo-BMT
3.自家骨髄移植
4.自己末梢血幹細胞移植(autologous blood stem cell transplantation, ABSCTあるいはperipheral blood stem cell transplantation, PBSCT)。顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor, G-CSF)などを投与して幹細胞が血中に流出したところでアフェレーシス(成分採血)を行って採取する。これを凍結保存(液体窒素)して化学療法後に急速解凍して静注する。

●CMLに対してはallo-BMTが唯一の治癒的治療法である。
シクロフォスファミドやブスルファンの大量投与とX線全身照射により可及的最大限に白血病細胞の減少を図る。

組織適合性(HLA抗原)の一致した同種骨髄を大量に移植。

血球の回復と残存白血病細胞の破壊が起こり治癒する。


慢性白血病
分類
分類
B)慢性白血病
1)非リンパ性:慢性骨髄性白血病、慢性骨髄単球性白血病
2)リンパ性:慢性リンパ球性白血病、形質細胞性白血病(多発性骨髄腫の白血病化)、hairy cell leukemia、前リンパ球性白血病

慢性骨髄性白血病

●骨髄芽球から成熟顆粒球まで各段階の顆粒球が異常に増加する。
●脾腫が多い。時に巨脾となる。
●主訴としては腹部膨満感、全身倦怠感、軽度発熱、食欲不振、顔面蒼白など。
●白血球数が著明に増加し、10-20万/μlに達する。白血病裂孔は認めない。
●骨髄有核細胞数が増加し、その大半は顆粒球である。
●好中球アルカリフォスファターゼが低値。
●フィラデルフィア・クロモゾーム(第9番染色体の長腕と22番染色体長腕との相互転座により生じた22番染色体が長腕が欠失したようにみえる染色体)が95%の症例で認められる。また、フィラデルフィア染色体形成時に9番目の染色体上にあるABL遺伝子と22番目の染色体上のBCR遺伝子が融合し、BCR-ABL遺伝子が形成されるBCR遺伝子再構成と呼ばれる現象もCMLの診断に用いられる。
慢性骨髄性白血病の末梢血。あらゆる成熟段階の顆粒球系細胞が出現。アルカリフォスファターゼが著しく低下。

慢性骨髄性白血病
経過と治療
●当初は無症状。診断後3-4年で急性転化を起こしその後6カ月で死亡する例が多い。
●慢性期の治療:
骨髄移植。
インターフェロンαの長期投与。
化学療法:ブスルファンやハイドロキシウレアの投与。

新しく開発されたAbl Tyrosine Kinase Inhibitor STI−571(Gleevec)は有効率が高い。

フィラデルフィア染色体が消えることを目標にする。

●急性転化時の治療:
急性白血病に準じて治療。



骨髄異型性症候群

骨髄造血不全と汎血球減少症を認める。著明な貧血を認めることが多い。
60歳以上の男性に好発。
慢性に経過し白血病に移行する例が約25%、感染症を主たる合併症として合併症で死亡する。

分類
I. 一次性不応性貧血 Primary Refractory Anemia
II. 環状鉄芽球を伴う不応性貧血 Refractory Anemia with Ringed Sideroblasts
III.骨髄芽球の過剰を伴う不応性貧血 Refractory Anemia with Excess Myelobasts (RAEB)
IV.慢性骨髄単球性白血病 Chronic Meylomonocytic Leukemia
V. 形質転換中のRAEB (RAEB in Transformation)

治療
メチルプレドニンのパルス療法が有効な例が約30%ある。
抗T細胞グロブリン 64%有効。
シクロスポリンA 81%有効。(5-6 mg/kg/day)
骨髄移植 50%有効。

赤血病

赤血球生成組織が不可逆的に増殖する疾患。

1)慢性赤血病 Chronic erythremia(真性多血症 Polycythemia vera):赤血球700から1200万/μl。深紅色の皮膚、頭重、眩暈、耳鳴り、血栓ができやすい、四肢末端の紅斑性疼痛症、時に肝脾腫。骨髄線維症に移行することもある。

2)急性赤血病 Acute erythremia:発熱、高度の貧血、肝脾腫、出血性素因。