呼吸器疾患:肺気量、血液ガス、肺炎、肺癌

肺気量

肺機能検査としてスパイロメトリーが行われ、さまざまな肺気量が測定される。
<スパイロメトリー>
・肺活量(Vital capacity, VC):最大呼気から最大吸気までに吸入できる空気の量。
・%肺活量(%VC):VCを身長・年齢から求められる基準値に対する%で表したもの。
・最大呼出肺活量(Forced vital capacity):最大吸気位から最大努力で最大呼気位まで呼出させた気量。
→ 肺の静的な予備能を示す。胸郭の変形、呼吸筋の機能不全、肺線維化による拡張制限、肺実質の減少など、を示す。VCの低下を拘束性の変化と呼ぶ。

・1秒量(Forced expiratory volume, FEV1.0):最大努力で呼出した際の最初の1秒間に呼出された空気の量。
・1秒率(FEV1.0%):FEV1.0のFVCに対する%(Gaensler)またはVCに対する%(Tiffeneau)。 
%1秒率(%FEV1.0)身長・年齢から求められる基準値に対する%で表したもの。
→ 閉塞性肺疾患など閉塞性障害があることを示す。

<フローボリューム曲線>
スパイログラムでは横軸に時間、縦軸に肺容量を記録することができるが、この呼出曲線に接線を引いて傾斜を求めると、流速(容量/時間)が得られる。これを連続して記録したものが、フローボリューム曲線となる。
→末梢気道の検出に有用である。

簡易型ピークフローメーターは喘息患者の自己管理に有用。

<肺拡散能>
COを用いて1回吸入法で行う。*一酸化炭素の拡散能DLCOを測定する。
肺胞における肺胞腔と肺胞毛細血管内血液の間のガスの移動を示す。Passive diffusionによって移動する。
DL=V/(PA-PC)
 V:移動したガスの量
 PA:肺胞気中のガスの分圧
 PC:肺胞毛細血管内血液のガスの分圧
→ 肺胞毛細血管の通過障害(間質性肺炎)、ヘモグロビン減少、肺胞の破壊によるガス交換面積減少(肺気腫)

<換気血流比分布>
肺動脈から供給される静脈血がどれくらい肺胞を通過するかを示す指標。
A-aDO2 (肺胞と動脈血の酸素分圧の差)
 :拡散機能と、動静脈シャントを含めた換気血流比分布の指標とすることが多い。

<体プレチスモグラフ>
・残気量(Residual volume, RV):最大呼出時になお肺に残る空気の量。
全肺気量(Total lung capacity, TLC):VC + RV
残気率(Residual rate, RR):RV/TLC (%)
機能的残気量(Functional residual capacity, FRC):安静呼気位の残気量。FRC - RVを予備呼気量と呼ぶ。
→ 肺気腫など肺の過膨張や気腫化の状態を示す。

換気機能障害の分類
スパイログラムによる

       1秒率(FEV1.0%)
       低下 ←70%→  正常
    
    正常 閉塞性      正常
     ↑
肺活量80%
(%VC) ↓
    低下 混合性      拘束性

動脈血ガス分析

末梢動脈血液をヘパリン化採血し動脈血ガス分析を行う。

PaO2:動脈血酸素分圧 (100 - 0.3×年齢 Torr)
PaCO2:動脈血炭酸ガス分圧 (40±5 Torr)
pH
HCO3- : 重炭酸イオン濃度 (24±2 mEq/l)
アニオンギャップ: Na+ - (Cl- + HCO3-) → 血中の測定されない陰イオンの量 (12±2 mEq/l)


パルスオキシメータによる酸素飽和度
装置を人差し指の先に装着することで、簡単に測定ができる。パルスオキシメータで測定された酸素飽和度はSPO2と呼ばれる。正常値は安静時で93%以上。90%以下になるとチアノーゼを呈しはじめ、50%以下になると組織損傷を起こす。
SPO2 ⇔ PaO2
85% 50 Torr
88% 55 Torr
90% 60 Torr


大気から静脈までの酸素・炭酸ガス分圧

大気:PO2 160 Torr (mmHg) (= 760 x 0.209) *760 Torrは大気圧、酸素は空気の約20%を占める。
  PCO2 ほぼ0

吸入気:PIO2 150 ( = (760-47*) x 0.209  *37℃での飽和水蒸気圧)
PICO2 ほぼ0

肺胞気:PAO2 105
PACO2 40

肺毛細血管:PCO2 105
  PCCO2 40 Torr

動脈血:PaO2 100 - 0.3 x 年齢  *たとえば、60歳では100-0.3×60=82 Torr (mmHg)
     PaCO2 40 ± 5 Torr

混合静脈血:PVO2 40
  PVCO2 46

肺炎

粒子状物質、病原体は上気道を介し、下気道に達する。下気道は自然免疫+獲得免疫で無菌状態に保たれている。
病原体が大量、高毒力、あるいは免疫力低下の場合、感染が成立する。

肺炎は肺実質の感染症である。

発熱、全身倦怠感、下気道症状(咳、痰、胸痛、呼吸困難)、胸部X線写真上に浸潤影を認める。聴診上荒いラ音(Coarse Crackle)を聴取する。

市中肺炎、院内肺炎、老人ホームなどで介護施設で発生する肺炎に分けられる。

肺炎発症にかかわる宿主側の因子
・高齢(65歳以上)
・喫煙
・飲酒
・COPD
・低栄養
・毒物の吸入
・免疫抑制剤の投与
・尿毒症
・意識障害:胃内容の誤嚥、睡眠中の気道分泌物の吸入など
・アシドーシス
・肺水腫
・気管の機械的閉塞
・気管支拡張症
・肺炎、慢性気管支炎の既往
・Kartagener's syndrome (ciliary dysfunction, situs inversus, sinusitis, bronchiectasis)
・Young's syndrome (azoospermia, sinusitis, pneumonia)
・H2ブロッカー、PPIによる胃液pH上昇?

・Typical
S. pneumoniae, Haemophilus influenzae, Staphylococcus aureus, Group A streptococci, Moraxella catarrhalis, anaerobes, and aerobic gram-negative bacteria
・Atypical
Legionella spp, Mycoplasma pneumoniae, Chlamydophila (Chlamydia) pneumoniae, and C. psittaci
原因病原体の同定は一般に20%、研究目的の場合60%で可能。
これら2つを臨床的に区別することは困難。

肺炎の診断プロセス

1.臨床的評価
咳、痰、胸痛、発熱、悪寒・戦りつ、呼吸困難、呼吸数増加、頻脈
嘔気、嘔吐、下痢、精神状態の変化
聴診でラ音聴取、打診で濁音
白血球増多、核の左方移動、(白血球減少は通常予後が悪い)

システマティックレビュー:臨床症状から原因病原体を正確に推測するのは困難。感度50%以下。

2.胸部X線撮影
単純撮影で浸潤陰影を認めること+臨床症状+細菌学的検査=肺炎診断のゴールドスタンダード
小葉硬化像、乾湿浸潤影、空胞
細菌性とそれ以外=ウイルス、その他を鑑別することは困難
X線像以外の所見が肺炎に否定的な場合:悪性腫瘍、出血、肺水腫、感染以外の原因による炎症
単純撮影で所見がないが、臨床的に肺炎が強く疑われる場合:CTスキャン
High resolution CT, MRIは空胞、リンパ節腫脹、腫瘍性病変の検出に有力

3.病原体検査
コンセンサスはない
以下の病原体は同定が極めて重要:
Legionella species
Influenza A and B
Avian influenza
Agents of bioterrorism
Community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus (CA-MRSA)

外来患者:通常不要。95%の場合、マクロライドまたはフルオロキノロンが経験的に投与され、有効。
入院患者:
60%の患者で同定可能、その60%がS. pneumoniae
喀痰の適切なサンプルは44%でのみ得られ、その82%でグラム染色の判定が可能
尿肺炎球菌抗原試験は54%の感度
血液培養は7~16%で陽性<>偽陽性率~10%?
気管支鏡は喀痰の採取できない患者の49%で、治療開始後改善のない患者の52%で診断に有効
PCR:Real-time PCR 76%感度、PCR 50%感度

検出される病原体

外来患者肺炎病原体:
1. Mycoplasma pneumoniae
2. Respiratory viruses
3. Streptococcus pneumonia
4. Chlamydophila pneumoniae (=Chlamydia pneumoniae)
5. Legionella
6. Hemophilus influenzae
7. 不明

入院患者肺炎病原体:
1. Mycoplasma pneumoniae
2. Respiratory viruses
3. Streptococcus pneumonia
4. Hemophilus influenzae
5. Chlamydophila pneumoniae
6. Legionella
7. 不明

ICU入院患者肺炎病原体:
1. Streptococcus pneumonia
2. Legionella
3. グラム陰性桿菌(Escherichia coli, Enterobacter spp, Serratia spp, Proteus spp, P. aeruginosa, Acinetobacter spp)
4. Staphylococcus aureus
5. Respiratory viruses
6. Hemophilus influenzae
7. 不明

肺炎重症度指数

Pneumonia Severity Index



ステップ2
人口統計学的因子
年齢(男性) 年齢
年齢(女性) 年齢-10
ナーシングホーム居住者 +10
併存疾患
悪性腫瘍(活動性) +30
慢性肝疾患 +20
うっ血性心疾患 +10
脳血管障害 +10
慢性腎疾患 +10

診察所見
精神状態の変化 +20
呼吸数≧30/分 +20
収縮期血圧<90mmHg +20
体温<35℃または≧40℃ +15
脈拍数≧125/分 +10

臨床検査、X線検査所見
動脈血pH<7.35 +30
BUN≧30mg/dl +20
血清Na<130mEq/L +20
血糖≧250mg/dL +10
ヘマトクリット<30% +10
動脈血酸素分圧<60mmHg +10
胸水 +10

リスク分類

クラス I 該当因子なし 死亡率 0.1%
クラスII <70 0.6%
クラスIII 71-90 2.8%
クラスIV 91-130 8.2%
クラスV >130 29.2%

入院の判断のストラタジー
クラスI、II→外来治療
クラスIII→短期間観察または外来治療
クラスIV→入院
入院が30%、短期観察が19%減少し、外来治療を推奨された患者の死亡率は1%以下、ICU入院は4.3%のみであった。

クラスI,II、IIIで低酸素血症を伴うものとクラスIVを入院させる
入院が26%、短期間観察が13%減少し、外来治療を推奨された患者の死亡率は1%以下、ICU入院は1.6%のみであった。

市中肺炎の治療

米国胸部疾患学会診療ガイドライン
外来患者:

1.薬剤耐性肺炎球菌感染のリスク(65歳以上、3カ月以内の抗菌薬投与、アルコール多飲、免疫抑制状態、多くの併存疾患、デイケアセンターの子供への曝露)がなければ、マクロライド(アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン)またはドキシサイクリン。薬剤耐性肺炎球菌のリスクがあれば、フルオロキノロン(ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、マキシフロキサシン)。

2.アモキシシリン3.0グラム/日(高用量)またはAmoxicillin/clavulanate 4グラム/日+マクロライド(アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン)

3.テリスロマイシン

一般病棟患者:

1.ベータラクタム系(セフトリアキソン、セフォタキシム、アンピシリン/スルバクタム、エルタペネム)+マクロライド(またはドキシサイクリン)
2.フルオロキノロン(ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、マキシフロキサシン)

ICU患者/重症患者:

ベータラクタム系(セフトリアキソン、セフォタキシム、アンピシリン/スルバクタム)+アジスロマイシン静注またはフルオロキノロン(ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、マキシフロキサシン)静注

緑膿菌の可能性がある場合(すなわち、気管支拡張症など器質的呼吸器疾患がある)、ピペラシリン/タゾバクタム、イミペネム、メロペン、セフェピム + 緑膿菌に有効なフルオロキノロン(シプロフロキサシンまたは高用量レボフロキサシン)

MRSAの可能性がある場合、バンコマイシンまたはリネゾリドを追加

治療効果の確認

通常有効な抗菌薬が投与されれば72時間以内には改善が認められる。
臨床的解決に要する期間中央値
発熱:3日
呼吸困難:6日
咳:14日
倦怠感:14日
患者の86%は30日後何らかの症状を認める

肺癌

肺癌死亡率は1998年男性60.2/人口10万、女性21.9/人口10万で年間5万人以上が死亡し、1993年以降男性の死因の第1位。

原因:喫煙(扁平上皮癌、小細胞癌)、大気汚染(ディーゼルエンジンの排気ガスなど)、職業因子(アスベスト、クロム)。

簡略化した分類

A. Non-small cell lung carcinomas (NSCLC)
1. Adenocarcinoma (30.7%)
2. Squamous cell carcinoma (30%)
3. Large-cell carcinoma (9.4%)

B. Small cell lung carcinoma (SCLS) (18.2%)


WHO Histologic Classification

I. Malignant epithelial tumors
A. Squamous cell carcinoma (epidermoid carcinoma)
Variant:
・ Spindle cell carcinoma

B. Small-cell carcinoma
・ Oat cell carcinoma
・ Intermediate cell type
・ Combined oat cell carcinomas

C. Adenocarcinoma
・ Acinar adenocarcinoma
・ Papillary adenocarcinoma
・ Bronchio-alveolar carcinoma
・ Solid carcinoma with mucus formation

D. Large-cell carcinoma
Variants:
・ Giant cell carcinoma
・ Clear cell carcinoma

E. Adenosquamous carcinoma

F. Carcinoid tumor

G. Bronchial gland carcinomas
・ Adenoid cystic carcinoma
・ Mucoepidermoid carcinoma

H. Others


II. Malignant mesothelial tumors
A. Malignant mesothelioma
・ Epithelial
・ Fibrous (spindle cell)
・ Biphasic


III. Miscellaneous malignant tumors
A. Carcinosarcoma
B. Pulmonary blastoma
C. Malignant melanoma
D. Malignant lymphoma
E. Others

非小細胞肺癌TNM分類

T因子:腫瘍の大きさ
T0 -原発腫瘍無し
Tis -粘膜内癌(Carcinoma in situ)
T1 -腫瘍最大径3cm以下、臓側胸膜への浸潤無し、気管支鏡で肺葉気管支より口側に浸潤所見無し
T2 -腫瘍最大径3cmを超える、主要気管支に浸潤あり(気管分岐部の竜骨から2cmはなれた場所まで)、臓側胸膜への浸潤あり、無気肺あるいは閉塞性肺臓炎が肺門部まで進展しているが全肺はおかされていない
T3 -腫瘍の大きさにかかわらず次の所見を伴う:胸壁、横隔膜、縦隔胸膜、壁側心膜への浸潤、主要気管支の竜骨2cm以内までの浸潤で竜骨は無傷、全肺の無気肺あるいは閉塞性肺臓炎
T4 -腫瘍の大きさにかかわらず次の所見を伴う:縦隔、心臓、大血管、気管、食道、椎体、竜骨への浸潤、悪性の胸膜あるいは心膜液の貯留、原発腫瘍を含む肺葉内にサテライト腫瘍が存在する

N因子:リンパ節転移
N0 -所属リンパ節転移無し
N1 -同側の気管支周囲リンパ節、肺内リンパ節、および/または、同側の肺門リンパ節への転移あるいは直接進展
N2 -同側の縦隔、および/あるいは、竜骨下リンパ節への進展
N3 -対側縦隔あるいは対側肺門リンパ節あるいは同側あるいは対側の斜角筋あるいは鎖骨下リンパ節への転移

M因子:遠隔転移
M0 -遠隔転移無し
M1 -遠隔転移あり。同側の別の肺葉へ転移性腫瘤がある場合はM1に分類する。

病期(Stage)分類
Stage 0 -粘膜内癌、すなわちTisN0M0
Stage I -リンパ節転移、遠隔転移のない局所限局、すなわちStage IA (T1N0M0)とStage IB(T2N0M0)
Stage II -同側肺門、および/または、気管支周囲リンパ節への進展がある局所限局疾患、あるいは、リンパ節転移、遠隔転移のない、局所限局浸潤:Stage IIA (T1N1M0)、Stage IIB (T2N1M0またはT3N0M0)
Stage IIIA -原発腫瘍による局所限局浸潤、および/あるいは、同側縦隔(および/または、竜骨下)リンパ節への進展(T3N1M0およびT1-3N2M0)
Stage IIIB -広範な切除不能局所浸潤、および/または、対側縦隔(あるいは鎖骨上かあるいは斜角筋)リンパ節進展(TいずれかN3M0とT4NいずれかM0)
Stage IV -遠隔転移 (TいずれかNいずれかM1)

非小細胞肺癌病期判定アルゴリズム

Staging Algorithm
造影CTスキャン(肝、副腎を含む)
T4N3またはM1(縦隔浸潤、胸膜浸潤)の疑い
生検(経気管針生検、気管穿刺、縦隔鏡、CTガイド下生検)、T4かどうかのための手術
造影CTスキャン(肝、副腎を含む)
それ以外のすべて
PET (Positron Emission Tomography) Scan
遠隔転移の疑い縦隔取り込み陽性・遠隔転移陰性縦隔陰性・遠隔転移陰性
生検で確定縦隔鏡、胸腔鏡、経気管生検、USガイド下縦隔リンパ節生検CTで縦隔陽性CTで縦隔陰性
縦隔鏡、胸腔鏡、経気管生検、USガイド下縦隔リンパ節生検手術によるステージング、開胸手術

非小細胞肺癌の治療

Stage IおよびII:
・外科切除 (IB、IIの場合術後化学療法Adjuvant Chemotherapyを追加する場合がある)。
・VAT (Videoassisted thoracoscopic surgery)(ビデオ胸腔鏡下手術)。
・放射線療法:Definitive radiotherapy (RT), Stereotactic body radiation therapy (SBRT),
・Radiofrequency ablation (ラジオ波焼灼療法)
*Neoadjuvant chemotherapy術前化学療法