自己免疫性肝炎 autoimmune hepatitis (AIH)

中年以後の女性に好発する。
1)持続性または反復性のトランスアミナーゼの上昇。
2)γグロブリンまたはIgG 2.0g/dl以上。
3)LE細胞現象(→Lupoid hepatitis)、LE testまたは抗核抗体(ANA)陽性。抗平滑筋抗体陽性。
4)A型、B型、C型肝炎ウイルス感染の存在を示す血清マーカーがいずれも陰性
5)ステロイドが有効。
 +
a)発熱、関節痛、発疹などのsystemic manifestation
b)膠原病を含む自己免疫疾患の合併。
c)赤沈の亢進(30mm/h以上)またはCRP陽性。

肝組織所見:慢性活動性肝炎。時に、小葉改築傾向、亜小葉性壊死。
病理組織学的にはウイルス性慢性肝炎との鑑別は困難である。
日本人症例はHLA DR4陽性例が90%を占め、残りはDR2が陽性である。(欧米のAIHはDR3が陽性である)

発病時に黄疸を呈し、ALTが高値をとり急性肝炎を思わせる症例もある。
ほとんどの例が少量のステロイドの服用でコントロールできるが、免疫抑制剤であるアザチオプリンの投与が必要な例もある。

自己免疫性肝炎の診断基準(改訂scoring system)
(International autoimmune hepatitis group, 1999年)

表5                                 
      
項目/特徴 点数 脚注       
性 女性 +2

ALP : AST (あるいはALT)比
<1.5 +2 1
1.5-3.0 0
<3.0 -2
血清グロブリンあるいはIgG(正常上限値との比)
>2.0 +3
1.5-2.0 +2
1.0-1.5 +1
<1.0 0
ANA, SMAあるいはLKM-1
>1:80 +3 2
1:80 +2
1:40 +1
<1:40 0
AMA陽性 -4
肝炎ウイルスマーカー
陽性 -3 3
陰性 +3
服薬歴
陽性 -4 4
陰性 +1
平均飲酒量
<25g/日 +2
>60g/日 -2
肝組織所見
Interface肝炎 +3
リンパ球形質細胞優位な浸潤 +1
肝細胞ロゼット形成 +1
上記を全て欠く -5
胆管病変 -3 5
他の病変 -3 6
他の自己免疫疾患 +2 7
付加的項目 8
他の限定された自己抗体陽性 +2 9
HLA DR3あるいはDR4 +1 10
治療に対する反応  著効 +2 11
  再燃 +3

総合点数の評価
治療前  AIH確診 >15
AIH疑診 10-15
治療後 AIH確診 >17 12
AIH疑診 12-17
  
表6の説明を参照すること.ALP = alkaline phosphatase, AST = aspartate aminotransferase, ALT = alanine aminotransferase, ANA = antinuclear antibodies, SMA = smooth muscle antibodies, LKM-1 = type 1 liver-kidney microsomal antibodies

表6 表5の説明
1 ALP:AST(or ALT)比はこれらの測定値をそれぞれの正常上限値(unl)で除した値とする.例:(IU/l ALP÷unl ALP) ÷(IU/l AST÷unl AST)

2 抗体力価はげっ歯目動物組織片を用いた間接蛍光抗体法(ANAはあるいはHEp-2細胞)で測定する.小児では低力価のことが多く(特にLKM-1),小児の低力価陽性は最低+1とする.

3 A型,B型およびC型肝炎ウイルスマーカーを意味する(例:IgMHA抗体,HBs抗原,IgMHBc抗体,HCV抗体およびHCVRNA).これら肝炎ウイルスマーカーが陰性でも病因にウイルスが疑われれば,サイトメガロウイルス,EBウイルスなどの肝炎に関連したウイルスマーカーを測定する.

4 最近のあるいは経過中に服薬し,肝障害性が知られているあるいは疑われる薬剤の服薬歴.

5 胆管病変はPBCやPSCに典型的な胆管病変(すなわち,十分な生検肝組織に認められる肉芽腫性胆管炎,胆管減少を伴う高度な胆管周囲線維化)および銅/銅結合蛋白の集合を伴う門脈周囲肝実質の胆管反応(いわゆる細胆管炎を伴う門脈周囲の胆管増生).

6 他の病因を示唆する重要な所見およびその共存.

7 患者あるいは1親等での他の自己免疫疾患

8 他の限定された自己抗体およびHLA DR3あるいはDR4(測定可能な場合のみ算定)の点数の加算は血清ANA, SMAおよびLKM-1が陰性の患者にのみ割り当てられる.

9 他の限定された自己抗体は測定方法およびAIHとの関連に関する成績が報告されたものである.pANCA抗体,LC1抗体,SLA抗体,ASGPR抗体,LP抗体,スルファチド抗体などが含まれる.

10 HLA DR3とDR4は主に北ヨーロッパ白色人種および日本人に関連する.他のHLAクラスII抗原でもその人種においてAIHとの関連を示す証拠が報告されれば1点を割り当ててよい.

11 治療効果判定はどの時期に評価してもよい.治療効果の点数は初診時の算定に加算する.

12 治療効果の判定は表7に示す.

表7 治療効果判定の定義

治療効果 定義

著効
次の一方あるいは両者:症状が著明に改善し,1年以内に血清AST, ALT,ビリルビン,免疫グロブリン値が完全正常化し維持療法で6ヶ月以上正常が持続,あるいはこの間の生検肝組織所見の炎症がごくわずかあるいは次の一方あるいは両者:症状が著明に改善し,全ての肝機能検査が治療開始1ヶ月で少なくとも50%改善し,6ヶ月以内の漸減療法中に血清ASTあるいはALT値が正常上限値の2倍未満を持続する,あるいは1年以内の生検肝組織所見の炎症がごくわずか.

再燃
次の一方あるいは両者:上記で定めた著効の後,症状の再出現の有無に関係せず,血清ASTあるいはALT値が正常上限値の2倍以上に上昇,あるいは生検肝組織所見が活動性病変を示すあるいは上記で定めた著効の後,血清ASTあるいはALT値のいずれかの上昇を伴い,免疫抑制薬の増量あるいは再投与を必要とするほど高度な自覚症状の再出現.

(J Hepatol 1999 Nov;31(5):929-38) )