消化器疾患:膵炎、膵癌、NASH、体質性黄疸、ウイルス肝炎

膵炎

急性膵炎
横浜市の無職Aさん(67)は昨年5月、自宅でテレビを見ているうちに突然腹痛に見舞われ、のたうち回った。「鉄の輪を腹にはめられ、締め付けられた感じ」だった。寝室で休み、トイレに行こうと立ち上がったところ、ひっくり返って、妻(60)に支えられた。

1998年5000人内1500人は重症で重症の27%が死亡、男性:女性=2:1、大酒家40%

急性膵炎診断基準
(厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班、1990年)
・上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
・血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある。
・画像で膵に急性膵炎に伴う異常がある。
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎とする。ただし、慢性膵炎の急性発症は急性膵炎に含める。また、手術または剖検で確認したものはその旨を付記する。 注:膵酵素は膵特異性の高いもの(P-amylaseなど)を測定することが望ましい。



重症膵炎の症状 
ショック
血圧下降
頻脈
乏尿
冷汗
チアノーゼ

膵炎の分類

1)急性膵炎:アルコールの大量摂取、胆道疾患、腹部の手術後、高脂血症に付随。
2)再発性急性膵炎

●激しい上腹部痛、背部痛、発熱、血・尿アミラーゼの上昇→禁食、抗コリン薬、鎮痛剤、輸液、抗酵素薬(メシル酸ガベキサートなど)、抗生物質の投与

3)慢性再発性膵炎
4)慢性膵炎:アルコールの大量摂取、胆道疾患、1)から慢性化、原因不明。

●上腹部痛、背部痛、脂肪便、下痢→Foipan、消化酵素薬の内服。

急性膵炎の原因

胆道疾患(胆石症ほか) (20%)
大酒のみ (40%)
手術・外傷・検査後に発症するもの
感染症(流行性耳下腺炎・ウイルス)
Hypertriglyceridema>1000 mg/dl (1.3-3.8%)
Hypercalcemia
Drug-induced:metronidazole, furosemide,etc.
Pregnancy
Post-ERCP
Trauma
Pancreas divisum
Vascular
原因不明 (25%)=特発性

急性膵炎の治療重症度判定

急性膵炎重症度判定基準-I
A:臨床徴候
◯ショック 収縮期血圧80mmHg以下、もしくは80mmHg以上でもショック症状を認めるもの。
◯呼吸困難 人工呼吸器を必要とするもの
◯神経症状 中枢神経症状で、意識障害(JCSU以上)を伴うもの。
◯重症感染症 白血球増加を伴う38℃以上の発熱、血液培養陽性・エンドトキシンの証明、腹腔内膿瘍の認められるもの。
◯出血傾向 消化管出血・腹腔内出血(Cullen徴候、Grey-Turner徴候)、DICを認めるもの。

急性膵炎重症度判定基準-II
B:検査所見
◯BE≦-3mEq/l
◯Hct≦30% (輸液後)
◯BUN≧40mg/dl またはCr≧2.0mg/dl
・Ca ≦7.5 mg/dl
・FBS ≧200 mg/dl
・PaO2≦60 mmHg
・LDH ≧700 IU/l
・TP ≦6.0 g/dl
・PT ≧15 秒
・Plt ≦10万/mm3

CT grade 分類
Grade T 膵に腫大や実質内部不均一を認めない。
Grade U 膵は限局性の腫大を認めるが,実質内部は均一であり,膵周辺への炎症の波及を認めない。 (「膵頭部で1椎体以上,膵体尾部で2/3椎体以上を膵腫大」としたHaagaらの基準)
Grade V 膵は全体に腫大し,限局性の膵実質内部不均一を認めるか,あるいは膵周辺(腹腔内,前腎膀腔)にのみ炎症の波及や液貯留を認める。
Grade W 膵の腫大の程度はさまざまで,膵全体に膵実質内部不均一を認めるか,あるいは膵周辺をこえて(胸腔,または左側の後腎膀腔)炎症の波及や液貯留を認める。
Grade X 膵の腫大の程度はさまざまで,膵全体に膵実質内部不均一を認め,かつ膵周辺をこえて炎症の波及や液貯留を認める。

Ransonの予後判定因子
アルコール性、その他
1.年齢 ≧55歳
2.WBC(/mm3) >16000
3.FBS(mg/dl) ≧200
4.LDH(IU/l) ≧350
5.GOT ≧250
6.Hct(%) 10以上低下
7.BUN(mg/dl) 5以上上昇
8.Ca(mg/dl) ≦8
9.PaO2(mmHg) ≦60
10.Base Deficit(mEq/l) ≧4
11.Fluid sequestraion(ml) ≧6000

胆石症によるもの:
1.年齢 ≧70歳
2.WBC(/mm3) >18000
3.FBS(mg/dl) ≧220
4.LDH(IU/l) ≧≧400
5.GOT≧250
6.Hct(%)10以上低下
7.BUN(mg/dl)2以上上昇
8.Ca(mg/dl) ≦8
9.Base Deficit(mEq/l)≧5
10.Fluid sequestraion(ml)≧4000

急性膵炎の予後
厚生省基準:
中等症での死亡率 2%、重症は30%
Ranson分類:
2点以下だと死亡率はほとんど0
3-5点で10-20%
6点以上で50%

急性膵炎の治療

急性膵炎の治療
・1日目にはCTスキャンは不必要(診断のために必要な以外は)。造影CTスキャンは増悪する患者あるいは重症膵炎の場合施行が正当化される。
・壊死性膵炎(膵の30%以上)抗菌薬imipenemを投与開始少なくとも1週間続ける。抗真菌薬fluconazoleが投与されることもある。
・壊死性膵炎以外は保存的治療のみ
・どの時点であれ心肺腎の合併症のため不安定な状態になったら壊死部の切除(壊死部と膿瘍を除去する)を行う。
・1週間の抗菌薬投与で改善しない場合は、CTガイド下に吸引を行い、感染の有無を確認する→感染があれば壊死部の切除、なければ抗菌薬投与を4-6週間続ける
・感染の疑いが強いときは吸引を繰り返す

急性膵炎の治療-3
Gabexate mesilate: Meta-analysisの結果では90日生存率は改善しないが、合併症の発生率は抑制。しかし、ARRは小さい。
SomatostatinとOctreotide: Meta-analysisの結果で生存を延長する。しかし、ARRは小さい。
Octreotide:大規模RCTではBenefitは証明されなかった。

急性膵炎に効果がないことが証明された治療
Nasogastric decompression
H2RA
Anticholinergics
Glucagon
Fresh frozen plasma
Peritoneal lavage

栄養補給
軽症の場合:水、電解質の補給だけで自然に回復
重症の場合:Parenteral(非経口)な栄養補給が理論的な背景で行われてきたが…
1.経鼻空腸管よりのエレメンタリー・ダイエットVS IVH→前者で合併症が少ない
2.同様の比較(72時間):前者で回復が早く、その他の項目で差なし。
3.同様の比較(7日):前者で回復が早い。

慢性膵炎

●慢性膵炎の臨床診断基準
(日本膵臓学会 1995)
確診例) definite chronic pancreatitis
1a USに於いてAcoustic shadowを伴う膵内の高エコー像(膵石エコー)描出される。
1b CTに於いて膵内の石灰化が描出される。
2 ERCPにて次のいずれかを認める。
  膵に不均等に分布する、不均一な分枝膵管の不規則な拡張
  主膵管が膵石/非陽性膵石/蛋白栓などで閉塞
または狭窄しているときは乳頭側の主膵管あるいは分枝膵管の不規則な拡張
3 セクレチン試験に於いて重炭酸塩濃度の低下に加え膵酵素分泌量と膵液量の両者/いずれか一方の減少が存在。
4 生検膵組織・切除膵組織に於いて膵炎の病理変化(膵実質の減少、線維化が全体に散在する)が存在。

慢性膵炎の症状:腹痛
心窩部痛でしばしば背中に放散する
嘔気・嘔吐をともなうこともある
座位で上体をまっすぐ立てたり、前かがみになると軽快することがある
食後15-30分で始まる
患者の20%は腹痛の症状がない
初期は短時間、進行すると長時間。腹痛のある期間とない期間があるものと、毎日の痛みが長くなり、非常に強くなる時期が繰り返すものとがある。

慢性膵炎の症状:膵不全
90%以上がおかされると、脂肪、蛋白の吸収が障害されてくる。
脂肪便:先に脂肪の吸収が障害される:ゆるい、脂ぎった、においの強い便
脂溶性のビタミン(A,D,E,K)とVit B12の欠乏が起きることもある。
糖尿病が末期に起きることがある:インスリン投与が必要な場合が多いが、1型糖尿病と比べると低血糖が起きやすい(グルカゴンの分泌も障害されるため)。

仮性嚢胞 Pseudocysts
慢性膵炎の10%に発生
通常は無症状だが、痛みと圧迫症状を引き起こすことがある
内容は膵液を含み、膵管とつながっているものが大部分
1年あるいは直径12cmになるまでは経過観察(以前は6cm)。急速な増大、周辺臓器の圧迫、痛み、感染の徴候があればドレナージ(外科的、内視鏡的、経皮的)。

慢性膵炎の治療
疼痛
膵酵素の補充:6 Viokase Tablets毎食後と就寝前
麻薬性鎮痛薬:
Narcotics+amitriptyline+NSAIDの短期投与
長期投与が必要の場合は、MS-continまたはFentanyl patch
腹腔神経ブロック
内視鏡的ステントあるいは乳頭切開
Octreotide? Antioxidant?
Surgery:Puestow procedure or resection (head or tail)
Autologous islet transplantation following pancreatectomy

脂肪便 Steatorrhea
Restriction of fat intake (<20g/day)
Lipase supplementation: 3 tablets pancrelipase (Viokase)
Medium chain triglycerides (MCTs) :胃と膵のLipaseで容易に消化され、胆汁が必要ない



膵癌の診断

●外分泌系悪性腫瘍=膵管癌>腺房細胞癌、
●65%が膵頭部癌>体部癌>尾部癌
●初期には無症状。膵頭部癌の70%に黄疸。心窩部痛、背部痛、下痢、食欲不振、るいそう。
●腫瘍マーカー

●画像診断:



膵癌の治療

●術前の準備
腫瘍サイズ(〜5cm)年齢は手術適応に関係ない
Stent:Plastic stent→閉塞性黄疸
Nutrition(Alb < 3.0 g/dl)
肝転移(−)、腹膜転移(−)、血管への浸潤(−)、遠隔リンパ節転移(−)

●手術時の処置
開腹時の観察で切除の可否を決める

肝転移(−)、腹膜転移(−)、血管への浸潤(−)、遠隔リンパ節転移(−)

●手術を受けた膵癌患者の予後Prognosis
手術時の死亡 ≦ 2% (年間20例以上の手術を施行している病院)
手術による切除は唯一の治癒的治療であるが、手術例の生存期間の中央値は18〜20ヶ月である
5年生存率は10%
5年以上生存した患者の半分は再発で死亡

手術を受けた膵癌患者の予後に影響する因子
腫瘍サイズ:治癒的切除を受けた場合
<2cm 5年生存率 20%
>3cm 1%
Stage
I 14%; II 0%; III 1%
リンパ節転移
(−) 生存期間中央値 4.5年; (+)11ヶ月
組織型
未分化型 10%;高分化型 50%
Margin of the Whipple resection specimen

●保存的(姑息的)治療Palliative Tx
88%の患者は浸潤範囲あるいは転移のため手術適応がない
対処すべき問題:
黄疸
疼痛
体重減少

閉塞性黄疸Obstructive jaundice
Bypass surgery: in 90% of cases bilirubin returns to normal range.
Endoscopic stent (metal): better relief rate of jaundice than percutaneous method (81% VS 61%).

疼痛Pain
Chemical intraoperative splanchnicectomy(内臓神経切除) or celiac block(腹腔神経節ブロック)
Percutaneous celiac block(経皮的腹腔神経節ブロック)

Use of long-acting opioid analgesics
抑うつ Dpression
第3次医療施設のデータでは:
38%の患者がBeck depression score >15の著名な抑うつ状態である

抑うつの診断と治療は患者の健康感覚を改善する
膵不全
膵頭部癌で膵外分泌不全が認められ、消化吸収不良があり、膵酵素の分泌が正常の10%以下に低下。

その結果として、体重減少が起きる。

●膵臓摘出後の治療:
Pancreatic Enzyme Replacement膵酵素補充療法:毎食少なくとも3万IU lipolytic activity服用

●膵癌の病理組織
Ductal cell phenotype: 90%
Ductal adenocarcinoma: most common
Adenosquamous cancers
Colloid carcinomas: 1-2%
Pleomorphic carcinomas, sarcomatoid carcinomas, giant cell carcinoma: less common
Acinar cell carcinoma
Mucin-producing tumors, Intraductal papillary mucinous tumors, Solid and pseudopapillary cyctic tumors,

miscellaneous cancers

●国立がんセンター中央病院での治療選択の目安:UICCの進行度分類による
I期:手術(+術中照射)(+全身化学療法)
II期:手術(+術中照射)(+全身化学療法)あるいは放射線療法+全身化学療法
III期:手術(+術中照射)(+全身化学療法)あるいは放射線療法+全身化学療法
IV期:全身化学療法

●膵癌の化学療法Chemotherapy
Burris HA, Moore MJ, Andersen J, Green MR, Rothenberg ML, Modiano MR, Cripps MC, Portency RK, Storniolo AM, Tarassoff P, Nelson R, Dorr FA, Stephens CD, Von Hoff DD: Improvement in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer: a randomized trial. J Clin Oncol 1997;15:2403-13.

肝疾患と肝機能検査

肝疾患
分類
1)ウイルス肝炎:急性(HAV, HBV, HCV)、慢性(HCV, HBV)
2)自己免疫性肝炎
3)原発性胆汁性肝硬変(PBC)
4)原発性硬化性胆管炎(PSC)
5)アルコール性肝障害
6)肝硬変症
7)薬剤性肝障害
8)劇症肝炎
9)その他


肝機能検査
●肝細胞破壊の指標:AST (GOT), ALT (GPT), LDH
●胆道系酵素:毛細胆管から総胆管の異常を反映:ALP, LAP, γ-GTP
●黄疸:総ビリルビン(TB)、直接ビリルビン(DB)
●膠質反応:間葉系の反応:慢性肝炎、肝硬変で上昇:ZTT←IgG, TTT←IgM
●肝臓の合成能の指標:プロトロンビン時間(PT)、コリンエステラーゼ(CHE)
●肝性脳症の指標:血漿アンモニア
●肝血液循環の指標:インドシアニングリーン(ICG)色素排泄試験
●肝生検:慢性肝炎の活動度の判定
●画像検査:エコー(超音波検査)、CTスキャン、MRI、血管造影

劇症肝炎

劇症肝炎とは、肝炎のうち、症状発現後8週間以内に高度の肝機能障害にもとづいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン時間40%以下を示すものとする。発病後10日以内に脳症が発現する急性型と、それ以後に発現する亜急性型がある。→原因は肝炎ウイルス、薬剤性肝障害。原因不明のものもある。

血漿交換、インターフェロン投与、ステロイド投与、人工肝によるサポート、肝移植。

昏睡度
I: 睡眠覚醒リズムの逆転、多幸気分、だらしない、時に抑鬱状態。
II: 指南力障害、ものを取り違える、異常行動
III: 興奮状態またはせん妄状態。嗜眠状態。
IV: 昏睡。
V: 深昏睡

Nonalcoholic Steatohepatitis (NASH)

肥満者に認められることが多い。肝細胞への脂肪沈着だけでなく、炎症細胞浸潤を伴っており、肝炎が認められる。

以下の報告がある(Dixon JB, Bhathal PS and O'Brien PE: Nonalcoholic fatty liver disease: predictors of nonalcoholic steatohepatitis and liver fibrosis in the severely obese. Gastroenterology 2001; 121:91-100. PMID: 11438497 )

肥満の腹腔鏡下手術時に得られた肝組織像を検討した結果、26/105(25%)でNonalcoholic Steatohepatitisの組織像が認められた。インスリン抵抗性(odds ratio [OR] 9.3, 95% confidence interval [CI] 3.4-26), 高血圧(OR 5.2, 95% CI 2.0-13.5)および血清ALT値の上昇(OR 8.6, 95% CI 3.1-23.5) はNASHと独立して関連する因子であった。これらの2つあるいは3つを組み合わせると、感度80%、特異度89%でNASHの診断が可能であった。飲酒と糖尿病はNASHの低減と相関があった(OR 0.35, 95% CI 0.12-1.00) および(OR 0.18, 95% CI 0.047-0.67)。 インスリン抵抗性、高血圧といった代謝症候群の特徴が独立して重度の非アルコール性脂肪肝疾患と関係がある。飲酒は重度の肥満者で、おそらくインスリン抵抗性を改善することにより、これを低下させるように思われる。

アルコール性肝障害

1)アルコール性脂肪肝
2)アルコール性肝炎:常習飲酒家で飲酒量の増加を契機に発症;GOTの中等度(>200IU/L)以上の上昇でGOT>GPT + 黄疸;腹痛;発熱;白血球増加;ALP上昇;γGTP上昇;肝組織でアルコール硝子体が認められる。
3)アルコール性肝硬変:毎日日本酒換算で5合以上、10年以上の飲酒歴;肝硬変の臨床症状がある。

体質性黄疸

先天性ビリルビン代謝異常が原因で、家族性に生じる黄疸。
●Gilbert症候群:Indirect Bilirubin (IB)が軽度上昇。特に治療の必要なし。
●Dubin-Johnson症候群:Direct Bilirubin (DB)が上昇。肝に黒褐色の色素沈着あり。特に治療の必要なし。
まれ。
●その他 :Crigler-Najaar症候群、Rotor症候群

A型肝炎 Hepatitis A

●Hepatitis A virus: RNA virus, 急性肝炎を引き起こしほとんどの例は自然治癒する。キャリアー状態は存在しない。抗原系は一つだけである。
●HAV に汚染された食べ物を摂取することによって感染する。経口感染あるいは糞口感染である。
●潜伏期(2-16 週) 。
●発病の前1 週間は糞便中にウイルスを排泄するのでこの時期の患者の便に汚染された水や、食べ物が感染源となる。
●自覚症状:発熱、倦怠感、食欲不振、尿の濃染。
他覚症状:黄疸、血清AST, ALTの上昇--血清IgM クラスのHA抗体が陽性であることによって診断される。
●1 カ月位の経過でAST, ALTは正常にもどり、治癒する。
●生涯免疫を獲得するので一度感染すると二度とかかることはない。低開発国では高齢者のHA抗体(IgG)の陽性率は非常に高い。
●感染予防にはA型肝炎ワクチンの接種が有効である。

B型慢性肝炎chronic hepatitis B

●HBVキャリアの母親から出生時または2歳までに感染すると、キャリアになる。
●無症候性キャリア:血清HBsAg陽性であるが、特に自覚症状なく血清AST, ALTは正常である。無症候性キャリアの状態から20歳前後で肝障害が始まり、肝障害が続く場合には、慢性肝炎の状態になる者が、90%といわれている。
●大部分はセロコンバージョンSeroconversion from HBeAg-positive to anti-HBe-positiveが起こり、その際に一過性の肝障害が起きるが、ウイルス量が激減し、無症候性キャリアのまま一生を終わる。HBVキャリア全体の約90%は無症候性のキャリアである。慢性肝炎になった場合でもセロコンバージョンと共に肝機能正常化する場合もあるが、肝炎が持続する場合もある。HBeAg 陽性のまま慢性肝炎が持続した場合AST, ALT軽度上昇が持続し、約10%が肝硬変、肝細胞癌へと移行するとされている。

B型急性肝炎acute hepatitis B

●Hepatitis B virus: DNA virusである。キャリアが存在しその大部分がキャリアーの母親から子供への感染(垂直感染)により、乳児期からキャリアとなった者である。抗原系はHBsAg, HBeAg, HBcAgの3つあり、血中に検出されるのは前2者である。これら三つの抗原に対して抗体が産生されるが、その出現時期は抗体により異なる。
●HBV キャリアの血液が体内に侵入( 針刺し事故、性交渉、麻薬の注射、など)により感染が成立する。
*HBワクチン以前は歯科医師の感染は一般の3〜6倍あった。
●潜伏期(60 日から6 カ月) とかなり長い。
●最初はウイルス血症となるが無症状であり、この時期に健康診断などで発見される可能性があるが、普通は 発熱、倦怠感、食欲不振、尿の濃染、黄疸、などの自覚症状が出現してから病院を訪れる。
●受診時に、血清AST,ALT の上昇を認め、血清HBsAgが陽性である。 劇症肝炎の場合には、血清HBsAgが陰性のことが多く、HBc抗体陽性である事や、PCR法によりHBV DNAが陽性である事を証明することによって、診断が付けられる。
●1-2カ月でALT正常化し、治癒するが、希に劇症化する。食欲低下時には輸液が必要となる。

B型肝炎ワクチン

●B型肝炎ワクチン接種:0,1,6ヶ月の3回の皮下注が必要である。HBs抗体の陽性化率は95%以上。
HBs抗体が一度陽性になれば、その後血清力価が低下しても、再接種の必要はない。医療従事者は全員接種することが望ましい。
また、HBs抗体が陰性の場合の感染事故に際して、HBIg(HBs抗体高力価の免疫グロブリン製剤)を48時間以内、できれば24時間以内に投与することによって、感染を防止できる。

C型急性肝炎 acute hepatitis C

●Hepatitis C virusはRNA virusであり、従来非A非B型肝炎と呼ばれていたものの約90%の原因であった。すなわち、輸血後肝炎の原因の大部分を占めていた。現在は輸血用の血液はHCV AbおよびHCV RNAをチェックしているので輸血後肝炎は激減した。
●抗原系はコア、非構造領域などいくつかあるが中和抗体の抗原系は不明。変異を起こしやすいウイルスである。日本では、遺伝子型(Genotype) 1bが多く、2aは少ない。
●血液を介して感染するので、医療従事者の針刺し事故、輸血、麻薬の注射、入れ墨、ピアスなどにより感染が成立する。しかし、血中のウイルス量が少ないため感染率はHBVより低い。
●潜伏期(2-16 週) 。
●血清AST, ALTの上昇。
●自覚症状は軽度のことが多い。
●HCV Abが検出される 、ただし、感染後2〜3カ月でないと陽性にならないので急性期の診断にはHCV RNAをアンプリコア法で調べる必要がある。
*血清HCV RNAは低濃度なのでPCR (polymerase chain reaction) でないと検出できない。
●1-2 カ月でALTが正常化して、HCV RNAが消失すれば治癒したと考えられるが、50から80%が慢性化する。その場合血清GOT, GPTが多峰性の変動を繰り返して正常化しない。

肝炎ウイルス検診

2002年4月から、地方自治体の施行している住民健診で、40, 45, 50, 55, 60, 65, 70歳の人を対象にHCV抗体とHBs抗原の検査が実施されている。今まで、血清ALT正常で、健診ではとらえられていなかったHCV陽性者が新たに発見されることになる。広島市の試験的なウイルス検診では732人のHCVキャリアの内、すでに通院していた者は、14%に過ぎず、大部分が新たに発見された者であった。