消化器疾患:腹膜疾患、感染性腸炎、炎症性腸疾患、大腸ポリープ・癌、過敏性腸症

腹膜疾患

●Sponataneous bacterial peritonitis (SBP)

腹腔内に外科手術による治療が必要な病変(潰瘍の穿孔、虫垂炎、憩室炎、腹腔内膿瘍など)が無いにもかかわらず(すなわち二次性ではない)、細菌感染を伴う腹水が存在する状態。

進行肝硬変症に伴う腹水貯留の際に起きうる。

腹水の細菌培養が陽性。
腹水の白血球数≧250/mm3

症状:発熱、(軽度の)持続性の腹痛、軽度の精神状態の変化(connect-the-number test >50秒)、軽度の腹部の圧痛、下痢、麻痺性イレウス、低血圧、低体温(進行した場合)、

治療:細菌の感受性試験の結果がわかる前に広域スペクトラムの抗菌薬(Cefotaximeなどの第3世代セフェム系)の投与を開始する(1A)。5日投与し腹水の白血球数<250/mm3であれば投与中止。

予防:SBPの既往の肝硬変症患者に、新キノロン系(norfloxacin 400gm/日など)の長期投与。消化管出血の肝硬変患者のばあい、入院時に予防的にIVで抗菌薬を投与。出血がコントロールされたら、norfloxacin 400mgを1日2回経口投与、7日まで)。

●腹膜偽粘液腫 Pseudomyxoma peritonei

腫瘤内にゼラチン状の物質が貯留し、腹膜表面にムチン様の転移巣を作る。腹囲の増大が発見のきっかけになる。虫垂に原発することが多い。巨大になることがある。

●腹水の鑑別診断アルゴリズム
腹水穿刺
肉眼所見黄色透明 水様透明 黄色混濁血性乳濁褐色
特定の検査または細胞数の訂正白血球/750赤血球−1 多形核白血球/250赤血球−1トリグリセライド濃度ビリルビン濃度
白血球数/mm3<500≧500
多形核白血球数/mm3<250≧250
↓(PMN≧50%)↓(PMN<50%)↓(PMN<50%)
血清−腹水アルブミン濃度差(g/dL)≧1.1<1.1≧1.1<1.1≧1.1<1.1
その他の検査総蛋白<2.5g/dL総蛋白≧2.5g/dL総蛋白<2.5g/dL単一培養細菌、総蛋白<1g/dL、グルコース>50mg/dL, LDH<225U/L複数培養細菌、総蛋白>1g/dL、グルコース<50mg/dL, LDH≧225U/L腹水アミラーゼ>100細胞診陽性結核菌培養実施細胞診陽性結核菌培養実施
合併症のない肝硬変の腹水心性腹水ネフローゼ症候群SBP二次性細菌性腹膜炎膵性腹水門脈圧亢進を伴う癌性腹膜炎肝硬変を伴う結核性腹膜炎癌性腹膜炎結核性腹膜炎
腹部超音波and/or肝生検胸部X線撮影および心エコー24時間尿蛋白量抗菌薬の臨床的反応立位正面腹部撮影膵中心の腹部CTスキャン原発巣の探索腹腔鏡下生検組織の結核菌培養
消化管穿孔・破裂の場合は外科手術考慮抗結核治療


腸炎

分類
1.感染性腸炎
2.抗生物質起因性腸炎
  偽膜性腸炎:Clostridium difficile が関与
  急性出血性大腸炎:Klebsiella oxytoca が関与
3.炎症性腸疾患(IBD: inflammatory bowel disease)
  潰瘍性大腸炎(UC: ulcerative colitis)
  クローン病(Crohn's disease)
4.非感染性腸炎
  放射線照射性大腸炎
アレルギー性腸炎
虚血性腸炎
その他



潰瘍性大腸炎 Ulcerative colitis

●原因不明:自己免疫?
再燃と緩解を繰り返す慢性疾患。
●大腸に直腸から連続性に潰瘍が多発する→粘血便、下痢、発熱、腹痛
●注腸X線検査、直腸鏡、大腸鏡で多発性の潰瘍、偽性ポリープを認める:直腸炎、左側大腸炎、全大腸炎。
●重症度に応じて、サラゾピリン、ステロイド、免疫抑制剤(シクロスポリンAなど)を投与。

クローン病 Crohn's disease

●原因は不明。自己免疫、特にマクロファージの異常が関与している。
●縦走潰瘍が特徴。大腸のみならず小腸もおかされる。
●腹痛、下痢、血便。肛門病変。瘻の形成が起こることもある(腸管の間、腸管と腹壁、腸管と膣)。回盲部病変が多い。
●Elementary diet投与、ステロイド、6-MP、手術。TNF-α阻害薬 Infliximab(TNF-αに対するモノクローナル抗体)の有効性が証明され、日本でも使用可能。

大腸ポリープ Colonic polyp

●単発、複数 ←→ ●ポリポーシス
●腺腫 Adenoma:Colonic polypの80%を占める。大腸癌の大部分が腺腫を母地として発生する=adenoma-carcinoma sequence。腺管腺腫<腺管絨毛腺腫<絨毛腺腫の順に癌化率が高い。
●検便(便潜血反応)、注腸X線検査、大腸鏡。
*内視鏡的ポリペクトミーで切除する。



消化管ポリポーシス

●Peutz-Jeghers症候群:食道を除く全消化管にポリープが多発。口唇、口腔粘膜、四肢末端部に米粒大の黒褐色の色素斑が左右対称にできる。癌の高危険群で卵巣、肺、子宮など他臓器の癌による死亡も多い。
●大腸腺腫症または家族性大腸腺腫症 Adenomatosis coli or familial adenomatotis coli:大腸全域に100個以上のポリープが発生。他の消化管、骨、皮膚、眼の病変も高率に認められる。十代に大腸切除。

大腸癌のスクリーニング

リスクファクターの評価を行う

リスクファクターがないリスクが平均的な人の場合:
50歳になったらスクリーニングを開始する
方法1
便潜血反応を1年に1回
S状結腸鏡を5年に1回→腺腫性ポリープあるいは癌が見つかった場合、必ず全部生検を行い、その後、大腸鏡でポリペクトミーを行う、癌に対しては状況に応じた治療を行う、大腸全体を見て他の部位に病変があるかどうか明らかにする、腺管腺腫性ポリープで5mm以下の場合には、経過観察するか大腸鏡を施行するか患者と相談して決める。

方法2
5年に1回便潜血反応とS状結腸鏡を一緒に施行する

(方法3
注腸X線検査(Ba Enema)を5−10年に1回施行する

方法4
大腸鏡を10年に1回施行する)

リスクのある人はより若い年齢からスクリーニングを開始し、より頻度を高くする。

(FAPでは思春期以後毎年S状結腸鏡を施行し、線腫性ポリープが多数ある場合、大腸摘出を考慮する)。

大腸癌

●症状:腹痛44%、便通の変化43%、血便または黒色便40%、衰弱20%、消化器系の症状を伴わない貧血11%、体重減少6%
その他の症状:隣接臓器への浸潤やFistulaの形成、FUO、腹腔内膿瘍あるいは後腹膜膿瘍、Streptococcus bovisやClostridium septicumによる敗血症、原発不明癌の6%は大腸癌が原因

●直腸、結腸の上皮性悪性腫瘍、殆ど腺癌。
●早期癌は隆起型が多い。進行癌は潰瘍限局型が多い。多発することが多い。
●高脂肪、高蛋白、低線維食と関連がある。
●多段階発癌のモデル:さまざまなoncogeneの活性化と、癌抑制遺伝子(p53など)の欠失。
●Adenoma-carcinoma sequence; De novo cancer
●肝転移が多い→超音波検査、CT;注腸X線検査、コロノスコピー

●ポリペクトミー、外科的切除。

●腸閉塞、穿孔は予後が悪い、結腸癌の場合、症状の数が多いほど予後が悪い、症状の続いた期間は予後と関係がない。

●リスクファクター
1.家族性腺腫性ポリポーシス、2.遺伝性非ポリポーシス性大腸癌、3.年齢、4.家族歴、5.炎症性腸疾患、6.糖尿病、7.その他:大腸癌の既往歴、喫煙、1cm以上の大腸ポリープの既往歴、腺管絨毛腺腫/絨毛腺腫ポリープの既往(特に多発性)、骨盤腔放射線照射の既往、アクロメガリー
●抑制因子
1.フルーツ、野菜の十分な摂取、2.定期的な運動、3.アスピリン、NSAIDの定期的服用、4.閉経以後の女性ではホルモン補充療法、5.その他:葉酸、カルシウム、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)

食餌性線維の追加は大腸癌発生を抑制しない。


ステージと予後

●Dukesのステージ分類
A:粘膜内、粘膜筋板の上にとどまり、リンパ節への転移はない
B1:粘膜固有層まで浸潤、しかし傍大腸脂肪織の上にとどまり、リンパ節への転移はない
B2:傍大腸脂肪織まで浸潤、リンパ節への転移はない
C1:B1と同じ浸潤+リンパ節転移あり
C2:B2と同じ浸潤+リンパ節転移あり
D:遠隔転移

●TNMステージ分類
Stage 0 : Carcinoma in situ; above muscularis mucosae (mm)
Stage I : T1 - through mm into submucosa; above muscularis propria (mp); N0, M0
T2 - into mp; above pericolic fat; N0, M0

Stage II : T3 - through mp into subserosa or perirectal tissues; N0, M0
T4 - through serosa or invasion into adjacent organs tissues; N0, M0

Stage III : Any T; N1 = 1-3 positive regional lymph nodes; M0
Any T; N2 = 4 or more positive regional lymph nodes; M0
Any T; N3 = any positive lymph node along a named blood vessel; M0

Stage IV : Any M1 = presence of distant metastases

N0 = no involvement of lymph nodes
M0 = no distant metastases

●ステージ分類と予後

5年生存率
Dukes A 97%; B1 78%; B2 78%; C1 74%;C2 48%; D 4%

TNM
Stage 0 100%
Stage I T1 97%、T2 90%
Stage II T3 78%、T4 63%
Stage III Any T;N1 66%
N2 37%
N3 ??
Stage IV 4%

他の悪性腫瘍

●カルチノイド carcinoid:胃、十二指腸、直腸に多い。異型度が低く、発育が遅い。細胞内に分泌顆粒があるのが特徴。肝転移あり。
●悪性リンパ腫 malignant lymphoma:リンパ節以外に発生するMLの20%が消化管に発生。Non-Hodgkin型が多い。潰瘍形成あるいは隆起性病変を形成。
●平滑筋肉腫 leiomyosarcoma

過敏性腸症候群 IBS

●Irritable Bowel Syndrome
●腸管の機能的な過敏症を特徴とする疾患。腸管の運動、緊張、分泌機能の亢進の結果、便秘、下痢などの便通異常、腹痛、不定の胃腸症状を呈する。
●心理社会的な要因が重要
●精神安定剤(minor tranquilizer)を投与することもある。

イレウス

Intestinal obstruction
腸管内容の通過が障害された状態:腹痛、悪心、嘔吐、便秘、排ガスの停止、鼓腸。
●機械的イレウス:
 閉塞性(単純性)イレウス- 腫瘍、癒着(術後など)
 絞扼性(複雑性)イレウス- ヘルニア嵌頓、腸重積、S状結腸軸捻転など、腸間膜血管の血行停止を来たし、重篤になる。
●機能的(麻痺性)イレウス:
 腹膜炎、開腹術直後など。
●腹部単純X線撮影
●禁食、輸液、胃管、イレウスゾンデの挿入