診断のプロセス1

診断のプロセス

1.問診 自覚症状と診断に役立つ付随的な情報を得る

起始と経過(現病歴)→症状の特徴

既往歴→今までに罹患した疾患
家族歴→遺伝的背景、生活状況

2.診察 理学的所見(他覚所見) 現症ともいう

視診、聴診、打診、触診など五感と血圧計やハンマーなど簡単な道具を使用して得られる所見

3.検査 検査所見(他覚所見)

検体検査(尿検査、血液検査など)、生体検査(心電図、画像検査など)


POS 医療記録の書き方

Problem-oriented System(POS)問題指向型システム

#1. 頭痛

S Subjective data

O Objective data

A Assessment

P Plan

#2. 高血圧

S

O

A

P

感度 Sensitivityと特異度 Specificity

感度 Sensitivityと特異度 Specificity[1]


四分表(2-by-2 table, 2×2 table)

疾患(+)疾患(−)
所見陽性ab
所見陰性cd
aからdは人数を表す。

感度 = 陽性率 = a/(a + c)
特異度 = d/(b + d)
偽陽性率 = b/(b + d)
偽陰性率 = c/(a + c)

尤度比 Likelihodd ratio


疾患(+)疾患(−)
所見陽性ab
所見陰性cd

陽性尤度比 Likelihood ratio for a positive finding (LR+) = 陽性率/偽陽性率
= [a/(a + c)]/[b/(b + d)]

陰性尤度比 Likelihood ratio for a negative finding (LR-) =偽陰性率/特異度
= [c/(a + c)]/[d/(b + d)]

* 陽性尤度比とはその所見が患者でどれ位陽性に出やすいかを表す指標となる。

オッズ(O)はある事象が起きる確率をそれ以外の確率で割り算したもの:
O = P/(1 - P)

検査前オッズにLR+を掛け算すると検査が陽性の場合の検査後オッズが得られる。
検査前オッズにLR-を掛け算すると検査が陰性の場合の検査後オッズが得られる。

オッズから確率(P)には次式で変換できる:
P = O/(O + 1)


ベイズの定理

ベイズの定理 Bayes theorem[2]

考え方:
「生まれたばかりの子供宇宙飛行士が,地球に降り立ったところ,丁度,日没であった。この子供科学者は夜を迎えて考えた,太陽が再び昇ることはあるのだろうか?なにしろ,地球に来たのははじめてだし,天文学の知識もないので,太陽が昇るのか,昇らないのかまったく分からない。そこで,太陽が昇る確率と昇らない確率は半々,つまり2分の1で0.5と0.5と考えることにした(事前確率)。言い換えると、「夜の後は太陽が昇る」という仮説が正しいという確信度は0.5と考えた。そこで,太陽が昇るという意味で白い玉を1個,昇らないという意味で,黒い玉を1個袋に入れた。さて,次の日の朝が来て,太陽が再び昇った(与えられたデータ),そこで子供科学者は白い玉を1個袋に加えた。この時点では袋から1個玉を取り出して,それが白である確率は3分の2であり,最初の0.5=2分の1より値は大きくなっている(事後確率)。さて,また次の日を迎え,再び太陽が昇った。そこで,さらに白い玉を1個袋に加えた。こうして,毎日朝を迎えるたびに,白い玉を袋に加えていった。98日後には,袋の中には99個の白い玉と1個の黒い玉が入っていることになる。この時点で,袋から1個玉を取り出すと,それが白い玉である確率は0.99となっていた(事後確率)。子供科学者は,地球上では夜に引き続いて日が昇るのは,ほとんど100%確実に起きることであると結論を下した。[3]」

ベイズの定理の基本形

あるデータが得られた場合、ある仮説が正しい確率 P(H|D) は、その仮説の元でそのデータが得られる確率 P(H|D)とその仮説が正しい確率P(H)とそのデータが得られる確率P(D)によって決まる。次式が一番単純な形でのベイズの定理を表したものである:

P(H|D) = P(D|H)P(H)/P(D)


P(A|B)という式は、Bという条件が与えられたときにAである確率を表す。条件付き確率と呼ばれる。

H: Hypothesis 仮説
D: Data データ(観測値)
P(H):Prior probability事前確率
P(H|D):Posterior probability事後確率

P(H)はデータを得る前の,つまり事前の,仮説Hについての確信の度合いを表す,主観確率といえる。Physician’s index of suspicion, Index of suspicion, 医師の診断確診度

診断を付けるとは?

疾患の診断をする場合には、症状Sが認められた時に疾患Dである確率を求めることになる。

P(D+|S+) = P(S+|D+)P(D+)/P(S+)

すなわち、疾患Dである場合に、症状Sが出る確率 P(S+|D+)と疾患である確率 P(D+)、後者は事前確率Prior probabilityあるいは検査前確率 Pre-test probabilityと呼ぶ、症状の出る確率 P(S+)によって、症状Sが認められた時に疾患Dである確率 P(D+|S+)が決定される。

症状Sを検査Tに置き換えると(TはTestの意味):

P(D+|T+) = P(T +|D+)P(D+)/P(T +)



診断の例:事前確率による違い

検査X:感度0.99、特異度0.99
すなわち、疾患があると99%の人が陽性となる。偽陰性率1%。
疾患がないと99%の人が陰性となる。偽陽性率1%。

この検査をその疾患の有病率が0.01%、すなわち10,000人に1人の集団で施行すると陽性の結果が得られた場合、何人に1人が本当にその疾患に罹患しているか?

もし、100万人を検査したとする。
その疾患を有する人は1,000,000×0.00001 = 100人、疾患でない人は999,900人。
疾患の人100人中陽性の結果が出る人は100×0.99=99人。
疾患でない人999,900人中陽性の結果が出る人は999,900×0.01 = 9,999人。
したがって、陽性の結果が出る人は、99+9,999 = 10,098人。
その内本当の疾患の人は99人しかいないので、99/10,098 ≒ 0.01すなわち、約100人に1人のみが疾患のある人ということになる。

この検査をその疾患の有病率が1%、すなわち100人に1人の集団で施行すると陽性の結果が得られた場合、何人に1人が本当にその疾患に罹患しているか?
その疾患を有する人は1,000,000×0.01 = 10,000人、疾患でない人は990,000人。
疾患の人10,000人中陽性の結果が出る人は10,000×0.99=9,900人。
疾患でない人990,000人中陽性の結果が出る人は990,000×0.01 = 9,900人。
したがって、陽性の結果が出る人は、9,900+9,900 = 19,800人。
その内本当の疾患の人は9,900人しかいないので、9,900/19,800 = 0.5すなわち、50%が疾患のある人ということになる。

同じ検査であっても、事前確率prior probability (検査前の疾患確率のことで、検査前確率pretest probailityとも呼ばれる)が異なると、意義が異なることがわかる。


[文献]

[1] Sackett DL, Straus SE, Richardson WS, Rosenberg W, and Haynes RB: Evidence-based medicine: How to practice and teach EBM. (2nd edition), 2000, Churchill Livingstone, London, UK.

[2] Thomas Bayes: An essay towards solving a problem in the doctrine of chances. Philosophical Transactions of the Royal Society, 330-418, 1763.

[3] Malakoff D: A brief guide to Bayes theorem. Science 1999; 286:1461.