医学の進歩

 医学の進歩は不可避であり,日進月歩で変わってゆく。進歩の原動力は病気で苦しみ悩んでいる人々をなんとか治してあげたいという人類に備わっている性質であり,新しい医学的発見を自分で成し遂げたいという自己実現の欲望であり,未知のものを明らかにしたいという好奇心であり,バイオテクノロジー分野で富をえようという欲望であり,"to write or to perish"というプレッシャーの中でキャリアアップを目指すのか、さまざまな要素が関係している。また、病気で苦しんでいる人の立場からいえば、なんとかして新しい治療法を開発して欲しいという気持ちが社会全体として医学の進歩を促すことにつながってゆく。資本主義の世界では医療経済学的原理に基づいて費用とそれからえられる便益をはかりにかけて,”割に合わないこと”はできない。しかし、医学の進歩は成熟段階にいたると医療費が減少することが示されており,進歩の段階が低い領域に対しては、研究費を投下して進歩を促すことが,最終的には医療費の低下にむすびつく[2]。したがって、あらゆる面から医学の進歩は不可避といえる。

図4 医学の進歩と医療費および病悩期間の関係。医療技術が進歩するに従い,医療費はいったん増加し,入院期間などの相対的病悩期間も長期化するが,さらに進歩すると医療費は減少し,病悩期間も短くなる。現時点でそれぞれの疾患がどの段階にあかを示す。