ヒトゲノム計画からオーダーメイド医療へ

ヒトゲノム計画

Human Genome Project:ヒトゲノム計画
アメリカ:National Institute of Health (NIH)にNational Human Genome Research Institute (NHGRI)が設置されている。NIHとDepartment of Energy (DOE)の2当局が共同で始めた。
日本:Genome Center Institute of Medical Science, University of Tokyo

医学・生物学のみならず生物情報科学、コンピュータ生物学などを含み、倫理的・法律的・社会的な影響・問題についてのコンセンサスを得るための活動など、非常に包括的であり、また、新しいテクノロジーの開発を促進し、新しい人材を育成するといった、現状を大きく変革する未来指向のプロジェクトである。

1998-2003年の目標
1-ヒトDNA配列
2-配列決定の技術
3-ヒトゲノム配列の個人差
4-機能ゲノム学の技術
5-比較ゲノム学
6-倫理、法律、社会への影響
7-生物情報学およびコンピュータ生物学
8-教育訓練

<文献>
ヒトゲノムに関する特集号:

・ Science 2001年2月16日号第291巻5507号1145−1434ページ
・ Nature 2001年2月15日号第409巻6822号813-941ページ

線虫のゲノム解読:

・ The C. elegans Sequencing Consortium: Genome Sequence of the Nematode C. elegans: A Platform for Investigating Biology. Science 1998;282:2012-2018.

ヒトゲノム計画について:

・ Collins FS, Patrinos A, Jordan E, Chakravarti A, Gesteland R and Walters L: New goals for the U.S. Human Genome Project: 1998-2003. Science 1998; 282:682-9. PMID: 9784121

Pharmacogenomics(薬理ゲノム学)の総説:

・ Evans WE and Relling MV: Pharmacogenomics: translating functional genomics into rational therapeutics. Science 1999; 286:487-91. PMID: 10521338



ヒトゲノム地図



ヒトDNA配列

2003年末までにヒトゲノムの完全な配列を明らかにする
2001年末までにヒトDNA配列の3分の1を明らかにする
2001年末までにマッピングされたクローンに基づきゲノムの90%をカバーする作業ドラフトを完成する
配列へのアクセスは全域について自由にできるようにする

配列決定の技術

作業の効率を引き続き高め、現在の技術のコストを低減する
配列決定の技術を著明に改善しうる新規の技術の研究をサポートする
新しい配列決定の技術のより進んだ開発と導入のための効果的な方法を開発する

ヒトゲノム配列の個人差

SNPsその他のDNA配列の個人差を高速に大規模に同定できる技術を開発する(SNP: single nucleotide polymorphisms)
これからの5年間に同定された遺伝子のコード領域にある一般的な個人差を同定する
少なくとも100,000マーカーのSNPマップを作成する
配列の個人差に関する研究の知的基礎を構築する
DNAサンプルと細胞株の公的リソースを作る

SNP: single nucleotide polymorphisms & STS: sequence-tagged sites
SNP: ヒト集団において相当の頻度(>1%)で塩基対が異なる場所
STS: DNAサンプルから対応するプライマーを用いてPCR反応で増幅すすることができるゲノムの短い配列 (24,568)
VDA: variant detector array (DNA chips)

機能ゲノム学の技術

cDNAリソースの開発
タンパク非コード領域の機能を調べる方法の研究のサポート
遺伝子発現の包括的解析の技術の開発
ゲノム全体にわたる変異生成法の改良
タンパク全体の解析技術の開発

比較ゲノム学

C. elegansのゲノム配列を1998年中に決定する
Drosophiliaゲノム配列を2002年までに決定する

マウスのゲノム
物理的および遺伝子マップの作成
cDNAリソースの更なる追加
マウスゲノム配列を2005年までに決定する
ヒトゲノムの理解に貢献するモデル生物を選択し、適切なゲノム研究のサポートを行う

倫理、法律、社会への影響

ヒトDNA配列完成と遺伝子の個人差をめぐる問題点の調査
医療、保健、公衆衛生の遺伝子技術と遺伝子情報の利用により起きる問題点の調査
ゲノム学と遺伝子‐環境相互作用に関する知識の医療以外の分野に及ぼす問題点の調査

新しい遺伝子に関する知識がさまざまな哲学的、倫理的問題におよぼす影響を明らかにする
社会経済学的因子や民族の概念が遺伝子情報の解釈や遺伝子サービスや政策の策定にどのように影響を与えるかを明らかにする

生物情報学とコンピュータ生物学

データベースの内容と利用を改善する
データの生成、取り込み、注釈のためのツールの開発
包括的な遺伝子機能の研究のためのツールとデータベースの改良
配列の類似性や相違を示したり、解析するためのツールの開発と改良
広く共用できる応用がきき輸出可能なソフトウェアのへの効率的なアプローチをサポートする機構を作る

Bioinformatics(生物情報学)
Computational Biologyとも呼ばれる。遺伝子の塩基配列やペプチド、蛋白のアミノ酸配列から2次構造、3次構造(立体構造)を明らかにし、機能や相互作用を研究する分野。
生物学、分子生物学、遺伝学、コンピュータ科学、生化学、物理学などの学際的分野。
インターネット上にデータベースが公開されている。

教育訓練

ゲノム研究に熟練した科学者の訓練の環境を育成する
ゲノム科学者の学問的キャリアの道を確立することを推奨する
ゲノム科学と遺伝学および倫理、法律あるいは社会科学の両分野に精通した学者の数を増やす

日本の取り組み

1989年10月:日本学術会議勧告「ヒト・ゲノムプロジェクトの推進ついて」などの勧告、報告が文部省、科学技術庁、厚生省においてだされた。

文部省は創成的基礎研究「ヒト・ゲノム解析研究」、重点領域研究「ゲノム情報」を5年間(1991年―1995年)の予定で発足させ、ヒトゲノム解析センターを東大医科学研究所に設置した。科学技術庁は、科学技術振興調整費「ヒト遺伝子地図」及び理化学研究所におけるゲノム解析研究をスタートした。

各省庁におけるゲノムプロジェクトを一体となって推進するために、内閣総理大臣を議長とする科学技術会議のもとに「ヒト・ゲノム解析懇談会」が設けられた。

我が国のとるべき方向として「ヒトゲノム解析懇談会」は1994年6月に「ヒトゲノム解析の当面の課題について」と題する報告を出し、また文部省のバイオサイエンス部会も報告「大学等におけるヒトゲノムプログラムの推進について ―第II期の研究の推進に向けて―」を1995年4月に出した。

文部省は、1996年―2000年の予定で重点領域研究「ゲノムサイエンス」を新しく発足させ、ヒトゲノムのシークエンス解析、新規遺伝子の機能解明、ゲノム情報の体系化に関するグループ研究を進める。

「ゲノムシークエンス分野」と「シークエンス技術開発分野」を、ヒトゲノム解析センターに新たに設置した。

日本学術振興会の未来開拓事業においても、ヒトゲノム解析を重要課題の一つとして決定し、プロジェクト研究を進めている。

一方、科学技術庁は科学技術振興調整費「ゲノムダイナミズム」及び科学技術振興事業団においてヒトゲノムシークエンス事業を進めると共に、理化学研究所に遺伝子機能の解明を目指す新しいプロジェクトをスタートさせた。

かずさDNA研究所など、民間のゲノム研究の活動も活発。

国際協調

国際的な機関 HUGO (Human Genome Organization) が1988年に設立され、アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の3つのオフィスを持つ。

国際ゲノム会議の他、生命倫理委員会などいくつもの委員会や研究会、共同のデータベースを作り活動している。

研究者たちはまた、各テーマごとに集まり情報交換や共同研究を進めている。例えば21番染色体の研究をしている人々は年に1回の定期会合で情報交換をする他に、この染色体のシークエンス決定などのために共同組織を作り、インターネットを通して相互に密な連絡をとりながら、共同のホームページを開設して、データの公開を行っている。 (以上ゲノムネットのホームページから引用http://www.genome.ad.jp/Japanese/)

2001年1月ヒトゲノム解読終了
Celera Genomics社
Scienceに発表
ゲノムデータベースを研究者には無料で制限をつけて公開、商業目的には有料で利用させる:日本の製薬会社などと契約

国際ヒトゲノム解読共同研究体
Natureに発表
ゲノムデータベースは無料で公開

ヒトゲノムの特徴 Celera社

2.91 Gbp (含ギャップ)
A+T 54%
G+C 38%
未解読 9%
繰り返し配列 35%

遺伝子 26,383
機能不明 42%

遺伝子(含想定) 39,114
機能不明 59%

遺伝子平均サイズ 27Kbp
遺伝子のない部分 605Mbp
遺伝子のある部分 25.5-37.8%
エクソンの部分 1.1-1.4%
イントロンの部分 24.4-36.4%
遺伝子間DNA 74.5-63.6%
SNPの率 1/1,250 bp

ゲノムサイズと推定遺伝子数

ヒト:3,000Mb 26,000〜38,000
ショウジョウバエ:180Mb 13,000
線虫: 97Mb 19,099

ヒト遺伝子数は予測されていた100,000より少なく、線虫よりは50%程度多い
一つの遺伝子から複数のタンパクが作られるらしい

他生物との異同





遺伝子の機能別分類 Celera社

未知 12,809個
酵素 3,142
核酸結合タンパク 4,158
シグナル伝達 3,775
細胞接着 577
細胞骨格 876
プロトオンコジーン 902
トランスポーター 533

イオンチャンネル 406
モーター分子 376
筋肉 296
細胞内トランスポーター 350
細胞外マトリックス 437
運送/キャリア 203
シャペロン 159
免疫グロブリン 264
Ca結合タンパク 34
ウイルスタンパク 100

今後の展開

Paradigm Shifts in Biomedical Research
Structural genomics → Functional genomics
Genomics → Proteomics
Map-based gene discovery → Sequence-based gene discovery
Monogenic disorders → Multifactorial disorders

Specific DNA diagnosis → Monitoring of susceptibility
Analysis of one gene → Analysis of multiple genes in gene families, pathways, or systems
Gene action → Gene regulation
Etiology (specific mutation) → Pathogenesis (mechanism)
One species → Several species