医学概論:病気になるとは

病気になることのさまざまな側面

病気になることは、本人が苦しむだけではなく、さまざまな影響を及ぼす。

各自以下のケースをGoogleなどで検索して調べてみよう。
パーキンソン病になったMichael J. Foxのケース
進行肺癌になった42歳内科医のケース

『死ぬ瞬間』
1965年、エリザベス・キューブラー・ロスがアメリカ国内で約200人の臨死患者とインタビューし、それらをまとめて出版した。

臨死患者の場合  *()内は追加事項

・第1段階/否認  (当惑:どうしていいかわからない状態)
の告知を受けると、ほとんどの臨死患者が「違う、それは真実ではない」と反応する。何かの間違いであり、死の事実を受け入れるなどとんでもないことだと否定する。

・第2段階/怒り (非難:他人のせいにする)
もはや死の可能性が否認できなくなると、怒り、憤り、羨望、恨みなどの感情があらわれる。見るものすべてが怒りの源となる。

・第3段階/取り引き (切望:どんな代償でも払おうとする、医療に過大な期待をもつ)
ひょっとすると、自分のを先へのばせるかもしれないと考える段階である。自分が良いことをすれば、神が褒美に癌を治してくれるかも知れないなどと考える。

・第4段階/抑うつ  (自己憐憫:自分を憐れむ)
もはや自分の死を否認できなくなり、衰弱が加わってくると、喪失感が強くなってくる。抑うつはこの喪失感の一部でもある。

・第5段階/受容
痛みは去り、闘争は終わりと感じる。疲れきり、衰弱し、短く間隔をおいて眠る状態となる。ここではほとんどの感情がなくなってしまっている。

生物学的側面

遺伝的背景のもとにその時の宿主の状態と環境因子が相互作用して病的状態を引き起こす。

単一遺伝子の異常で引き起こされる疾患もあるが、ほとんどは多遺伝子性である。

環境因子:たとえば、病原性細菌、ウイルスのVirulenceと量⇔宿主の因子:自然免疫(好中球、マクロファージなど貪食細胞+獲得免疫(抗体、Bリンパ球、Tリンパ球など)



感染症の発症

患者本人にとっての意味

仕事を含め自分のしたいことができなくなる。
落ち込んだり、精神的な影響を受ける。
痛みなどの苦痛を覚える。
医療費の支払いが必要になる。
通院したり、必要に応じて入院したり、時間を奪われ、行動が制限される。
医療を受けた場合、副作用、医療の失敗などで被害を受ける可能性がある。

家族や近親者にとっての意味

悲哀の感情を引き起こす。
付き添いをしたりするために時間を奪われることがある。
介護に時間とエネルギーを奪われることがある。
家族内発症が問題になる場合がある。
遺伝的素因が心配になることがある。

社会にとっての意味

仕事を休むことによる経済損失。
医療費の医療保険による負担。
だれでも適切な医療を受けられるように、社会基盤を整備する必要がある。(病院の配置、医師、看護師などの配置)。
感染症対策。
医薬品、輸血、医療器具などが必要。
医療記録の電子化などが必要。

疾患や治療のアウトカムとは

アウトカムOutcomeは転帰と訳されるが,危険因子や治療などの予知因子Predictorによる影響を知るために測定する指標あるいは項目と考えることができる。つまり,効果測定指標、効果測定項目である。たとえば,抗癌剤のランダム化比較試験であれば,抗癌剤またはプラセボ(あるいは従来の抗癌剤)による治療が予知因子であり,その効果を測定する指標は生存Survival,健康関連QOL Health-related quality of life(HR-QOL)などとなる。したがって,この場合のアウトカムは生存やHR-QOLということになる。

アウトカムの内,最終的に測定されるものはエンドポイントEnd pointと呼ばれる。さらに,エンドポイントの一番重要なものは主要エンドポイントあるいは一次エンドポイントPrimary end pointと呼ばれ、それ以外は副次エンドポイントと呼ばれる。

医療提供者の側から見たアウトカム

医療供給者の側から見れば,生存Survivalあるいは死亡Deathや症状の改善, 疾患の治癒ということになる。

危険因子(要因曝露)あるいは治療介入(Intervention)の効果を知るには、何らかのアウトカムを測定してそれが、これら予知因子の有無よって変化するかどうかを研究する必要がある。

測定の結果は統計学的に処理され、対照群、すなわち、危険因子あるいは介入のない群と比較し、統計学的有意差があるかどうかが解析される。

また、危険因子や介入の効果の程度は定量的に評価されるが、その指標として以下に示すさまざまな効果指標が用いられている。

Risk Ratio (RR)

アウトカム(+)アウトカム(-)
介入(+)または要因曝露(+)ab
介入(-)または要因曝露(-)cd

リスク比 Risk Ratio (RR)= [a/(a + b)]/[c/(c + d)]

アウトカムが症状や病態の場合には、値が1.0より小さいほど有効性の高い治療法である。

逆に、アウトカムが有効や症状が無い状態の場合には、値が1.0より大きなほど有効性の高い治療法である。

相対危険度 Relative Riskという用語が用いられることもある。

Odds Ratio (OR)

アウトカム(+)アウトカム(-)
介入(+)または要因曝露(+)ab
介入(-)または要因曝露(-)cd

オッズ比 Odds Ratio (OR) = (a/b)/(c/d) = (a/c)/(b/d) = ad/bc

リスク比に似た指標であるが、ランダム化比較試験やコホート研究のような前向き研究だけでなく、、症例対照研究のような後ろ向き研究でも適用できる。

Relative Risk Reduction (RRR)

アウトカム(+)アウトカム(-)
介入(+)または要因曝露(+)ab
介入(-)または要因曝露(-)cd

相対危険度減少率 Relative Risk Reduction (RRR) = 1 - RR = [c/(c + d) - a/(a + b)]/[c/(c + d)]

対照群のベースラインリスクBaseline Riskが何%下がるかを表す。

Absolute Risk Reduction (ARR)

アウトカム(+)アウトカム(-)
介入(+)または要因曝露(+)ab
介入(-)または要因曝露(-)cd

絶対リスク減少 Absolute Risk Reduction (ARR)= c/(c + d) − a/(a + b) = Baseline Risk×RRR

アウトカムが症状や病態の場合には、値が+でより大きいほど有効性の高い治療法である。

逆に、アウトカムが有効や症状が無い状態の場合には、値が−でより小さなほど有効性の高い治療法である。率差 Rate Difference、リスク差 Risk Differenceとも呼ばれる

Number needed to treat (NNT)

アウトカム(+)アウトカム(-)
介入(+)または要因曝露(+)ab
介入(-)または要因曝露(-)cd

治療必要数Number Needed to Treat (NNT) = 1/|ARR|

その治療法の効果を確認するには最低何人治療する必要があるかを示す[2]。値が大きいほど、有効性の低い治療法である。値が1.0に近いほど、有効性の高い治療法である。対照がプラセボあるいは無治療であれば、その治療法の有効性を示すが、対照が従来の治療法の場合には、それとの差を表す指標になる。

危険因子の影響を表す場合には、Number Needed to Harm (NNH)と呼ぶ。

Average duration of life gained (ADLG)

ほとんどの患者が死亡する疾患の場合には、生存をアウトカムとして、Kaplan-Meier法などで生存曲線を求め、群間の差をLogrank法などで比較することによって、治療法の有効性を証明することが行われる。生存曲線に有意差があるということだけではなく、治療によって平均生存期間がどれ位延長するかを表す指標がADLGである。ADLGは対照群の平均生存期間と治療群の平均生存期間の差であり、その治療をうけると平均でどれだけ生存期間(余命)が延長するかを表す。

文献

[1] Coons SJ, Rao S, Keininger DL and Hays RD: A comparative review of generic quality-of-life instruments. Pharmacoeconomics 2000; 17:13-35.
[2] Lubsen J, Hoes A and Grobbee D: Implications of trial results: the potentially misleading notions of number needed to treat and average duration of life gained. Lancet 2000; 356:1757-9. PMID: 11095272

患者の側から見たアウトカム

真のエンドポイントあるいはアウトカムとは何であろうか。医療を提供する側から見れば,生存Survivalあるいは死亡Deathや症状の改善, 疾患の治癒ということになる。一方で,患者の側から見ると, 本人自身の主観に基づく健康度や役割機能・社会機能などの日常生活機能ということになる。近年特にアウトカム研究Outcome researchが進歩し医療Health careの価値を患者の側からの尺度によって評価しようとする試みがなされている。

健康関連QOL

これらの尺度の一つが,健康関連QOL Health-related quality of life (HR-QOL)の測定である。QOLは生活のことであり,もともと社会経済的な面の生活の質を問う研究から生まれた言葉であるが,健康に焦点を定めて,生活の質を評価して,それを尺度に治療の有効性,医療のレベルを評価しようとすることが試みられてきた。HR-QOLを測定する方法Instrumentには包括的genericなものと,それぞれの疾患に合わせて作成された特異的specificなものがあり,すでに数百に上る方法が考案されている[1]。

包括的健康関連QOL測定法
1. The Medical Outcomes Study 36-Item Short Form (SF-36) health survey
2. The Nottingham Health Profile (NHP)
3. The Sickness Impact Profile (SIP)
4. The Dartmouth Primary care Cooperative Information Project (COOP) Charts
5. The Quality of Well-Being (QWB) Scale
6. The Health Utilities Index (HUI)
7. The EuroQol Instrument (EQ-5D).
8. WHOQOL-100およびWHOQOL-BREF

SF-36

SF-36(http://www.sf-36.com/general/sf36.html )について簡単に紹介する。
SF-36では以下の8つのサブスケールを100点満点で評価する。それぞれのサブスケールには2段階から5段階までの順序尺度をもつ選択肢のある質問事項が全部で36あり,それらに回答することによって,点数が計算されるようになっている。

SF-36サブスケール
1. 身体機能Physical functioning
2. 身体機能の障害による役割制限Role functioning physical
3. 痛みBodily pain
4. 社会機能の制限Social functioning
5. 全体的健康観General health perceptions
6. 力 Vitality
7. 精神機能の障害による役割制限Role functional emotional
8. 精神状態Mental health)